まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
今回、ちらっとこれまで触れていなかったこの世界(地球)に関しての暦をいれております。
元が地球にはかわりがないので現実世界の神話や伝承。
それらに基づいてこのお話しの基礎ともいえる裏設定はなされております。
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「協会主催、修学過程検証実技大会の開催?」
もうそのような時期なのか、とおもってしまう。
何かこのたびはいろいとあってすっかりもって失念していた。
「娯楽でもありますし。どうなさいますか?長?」
長である彼のもとに出されているのは、休暇願の数々。
竜族でもある彼らの寿命は果てしなく長い。
そしてまた娯楽も極端に少ない。
ゆえに人間達などが開催する娯楽を楽しみにしている輩は少なくない。
もっとも、それは人間達に限らず、神々などにもいえるのだが。
ちなみに、この大会、実は天界、魔界、そして精霊界などでも日程を変更して執り行われる。
ゆえに長期間にわたる娯楽として様々な存在に定着しているのも事実。
…もっとも、他界の大会は実力あるものでしか視ることはかなわないが。
基本、それぞれが属する【界】の様子をみるのがせいぜいである。
いくら大会の様子を視ることのできる【水晶珠】でも他界の大会の様子までは映し出さない。
もっとも、写しだしたとしても力のない特に人間などの目では、
神々や精霊達の姿を捉えることもできないであろう。
「まあ、いくのはかまわんが。しかし今の情勢が情勢だ。いくものたちはかなり気をつけるように。
そうつたえておけ」
「はっ!」
竜族の長であるシアンの言葉をうけ、敬礼し武装している青年がその場をあとにしてゆく。
そんな様子をみつつ、
「…まさか、ヴリトラ様達まで参加する…なんてことは…あ…ありえる……
……分身を作り出して我も様子をみにいったほうが…よさそう…かな?」
自身のつかえる神とそして、あの場にいるであろう【星の意思】。
あの二人がそろった時どんなことがおこるのか、シアンとて予測は不可能。
意思のほうは問題ない。
そもそもすべての存在が彼女にとっては子供のようなものなのだから無茶はしないであろう。
しかし、ヴリトラに関しては話しは別。
何しろ気が乗ったり、さらには遊びに夢中になれば彼女は周囲をまったくかえりみない。
そのことを一番身をもって知っているのは、代々の長となる黄竜のみ。
長の地位を受け継ぐときに代々の記憶もまた受け継ぐこととなる。
次代になるべき新たな命もつい先日誕生した。
できうれば憂いに関することは自分の代でどうにかしておきたいものである。
そんなことをおもいつつも、
「……なんか、いつも我は気苦労背負ってないか?」
ぽつり、とつぶやく竜族の長、シアンの姿がその場において見受けられてゆくのであった……
光と闇の楔 ~侵喰と大会と~
いつの時代も傲慢な考えをもつものはいる。
それは種族を問わず。
彼らの考えまでには干渉しないとは決めてはいるが。
そもそも、心までは干渉していない。
自分にできることは、産まれ来る様々な命をはぐくみ、導くことのみ。
その命が間違った道に進むならば強制的に正さなければならないが。
そもそもそういった輩は自分達の罪を認めようとしない。
その結果、どういう結果になっても自分達はわるくない。
そう責任を他者にとおしつける。
たとえそのせいで自然が壊れたとしても、壊れた自然のほうがわるい、というように。
「…あらら。ヴリちゃん。遊んでるけど。ま、いっか。あの子達にはいい薬になるでしょう」
最近、かなり傲慢な考えをもつ存在達が増えていたのも事実。
それに何よりも、
「最近、ヴリトラは人間達の【心】を直接【喰べて】いないからねぇ」
心を喰らうことにより意識の共有もできる。
人間世界での常識を知らないのは彼女が最近彼らの心を喰らっていないから。
わざわざ神竜であるヴリトラがうごかずとも、【理】の中で【ゾルディ】としてそれらの心の塊、
つまり【念】は形をえる。
もしも彼女がすべてのゾルディになるまえの【強い思い】の源となる【心】を喰らうならば、
世界にゾルディ、という存在は誕生しない。
かつてヴリトラはすべてのそれらを喰らっていたが、今は気がむいたときにしか喰らわない。
ゆえに、各界のいたるところに【ゾルディ】が多発しているのも事実。
「さて、あの子達だけで満足するか。それとも全体を飲み込むか。すこしばかり観察しとくとしますかね」
あくまでも傍観者。
ヴリトラが何をするのか大体予測ついているのに止める気のまったくないディア。
彼女が今いるのは寮の自室。
その正面にはヴリトラの様子が空中にと映し出されている。
しばしその光景をみつつのんびりとつぶやくディアの姿がその場においてみうけられてゆく……
こんな子供だましな幻影をみせて。
こんな子供だましに教師達はひっかかったのか。
そうおもうと馬鹿馬鹿しくなってしまう。
やはり教師達よりも自分達のほうがはるかに実力あるじゃないか。
そう彼らの中で結論がつけられる。
彼らの目前に広がったのは、どこまでも真っ暗な空間。
その空間の中に彼ら三人と、少女のみがぽつん、と暗闇の中に浮かんでいるような景色がこの場には広がっている。
真っ暗とはいえ足元はしっかりしているのか、何かを踏みしめている感触がある。
ゆえに確信がもてる。
これは少女がみせているただのまやかしで、自分達はいまだに廊下にいるのだ、と。
そもそも、その考え自体が間違っていること自体に彼らは気付かない。
たったのひとことだけで別次元に空間が作り出された、などと一体誰が想像できるであろう。
彼女の正体をしっていればその予測は可能であろうが、しかし目の前の男性三人は少女が、
ただの周囲がさわいでいるだけの力のない子供、としか考えていない。
思慮にかけている、といえばそれまでなのだが。
しかし彼らは自分の考えが絶対でゆえに誰にも否定させられるはずがない。
そういう概念の持ち主。
彼ら三人に関してはギルド側もかなり手をやいているものの、
彼らが研究し発明した品々はたしかに役にたっているのも事実。
ゆえに彼らの態度についてはもはや暗黙の了解、という悪循環極まりない現状が生まれていたりする。
「俺達にこんなまやかしがつうようする、とおもってるのか?なあ?」
後ろにいる二人に声をかければどちらも同じようにうなづいていたりする。
そういい、何の気なしに一人が横に手を伸ばすが、一瞬顔をしかめてしまう。
もしもここが想像どおり、ただの幻をみせられているだけならば、手をのばせばそこにあるはずの壁がない。
手はむなしくただただ虚空をそのままつっきっている。
一瞬不可思議におもうがたいしたことではない、そう頭の中で切り捨てる。
もしもここでもう少し思慮深く考えればおそらく彼らはこれから起こることを少しでも軽減できたであろう。
「じゃ、おじさんたち、はじめようか?私をしっかりと楽しませてくれるんでしょう?」
にこにこと邪気のない屈託のない笑みをうかべつつもそんな彼らにむかって言い放つヴリトラ。
自分達の力と知識が絶対。
そう思っている輩と対峙するのはヴリトラにとってはかなり楽しい。
そもそも、彼らがだんだんと自身の力に呑まれて恐怖してゆく様ですらヴリトラにとっては楽しくてしかたがない。
見た目が少女の姿であることからはたからみればその姿は異様、というにつきるが。
しかし子供、というものは平気で残酷な行動をするものである。
その顕著な例がこのヴリトラ。
にこやかに笑みを浮かべつつ、何の罪悪感も感じないままに様々なことを試行する。
ゆえに、一部の存在達からは悪竜神とすらいわれているほど。
「じゃ、はじめよっか?」
にっこりとつぶやくヴリトラの言葉とともに、闇の触手が人間の男たち三人の体を瞬く間にと飲み込んでゆく……
もっと。
もっと恐怖を感じ、そして自らに憎悪を抱かせて?
そう思いつつもにこやかに邪気のない笑みを浮かべたまま三人を相手にしているヴリトラの姿。
ただのまやかしだ、とおもっていた。
すこしばかり傷をつければ簡単に逃れられる、と。
また自分の力でこんなまやかしなど簡単に壊せる。
否、壊せない結界などない、そうおもっていた。
隠し持っていた武器を投げてそれを証明しようとしても、そのまま短剣はそのまま闇に飲み込まれてゆき、
次の瞬間。
「ぐわっ!?」
たしかに目の前にむけて投げたはずなのに
どうして自分の投げた短剣が自分の背後から飛んでこなければならないのか。
体にまとわりついてくる触手を振り切ろうとすればものすごい激痛が体全体に襲いかかる。
そのまますっぱりと手の肉がさけて中の赤身がこれでもか、というほどに垣間見えていたりもする。
ここはあくまでもヴリトラの創りだした精神世界面のような場所。
彼らの肉体は肉体であって肉体であらず。
つまり、彼らは精神体のみでこの場に放り出されている格好となっている。
第三者がみれば、少女とにらみ合ってびくり、とも動かない男たちの姿を目にすることであろう。
現実面というか物質世界面においてはたしかにそのような光景が垣間見られていたりする。
もしもそんな彼らに触れるものならば触れた存在も問答無用でこの空間に引きずり込まれる。
本当ならば肉体をもったままこの空間に連れてきてもヴリトラとしてはよかったのだが。
しかしそれでは面白くないし楽しめない。
なぜならば自分の力に絶対的な自信をもっているものは自分の肉体が傷つくと、
もののみごとに錯乱することがある。
簡単に錯乱状態になられても面白くない。
ゆえに精神体のみをこの場にひっぱってきているヴリトラ。
未知なるものへの恐怖ははてしない。
しかも自分に自信があったがゆえにその恐怖は計り知れない。
目の前には絶えず笑みをうかべたままの小さな少女。
ありえない。
自分達の攻撃、しかも術などすべてにおいてあたることすらなく、
さらにはその攻撃のすべてが自分達の背後からまるで自分達が自分に向けて攻撃をしかけたようになるなんて。
空間を捻じ曲げる術があることは知っている。
しかしそれを行うには膨大な力が必要だ、とも知っている。
だからこそ、目の前の少女がそんな力をもっているはずがない。
それなのに…未知なる恐怖。
その恐怖に彼らが気づくのはあまりにも遅すぎた。
それでも残った自身のプライドがその間違いを認めようとしない。
否、認めたくない。
今までの現象はすべて、少女がみせているまやかしなのだ、そう自分自身に言い聞かせる。
体が震えているように感じるのは自分達の気のせい。
自分達はこんな少女に負けるはずなどない。
何よりも目の前の少女が自分達より力があるなど信じられるはずもなけれはばありえるはずもない。
そのプライドが彼らをさらに窮地に追い込んでいったという事実に彼らは気付かない。
しかしいくら心をごまかそうとも深層心理の中においては確実にその恐怖はたまっていっている。
何かのきっかけで簡単に壊れてしまうほどの…純粋なる恐怖。
しばし何ともいえない男たちの叫びが空間内部に広がってゆく……
圧倒的なまでの力の差。
これは一体何なのか。
感じる激痛に、自分達の攻撃で傷つき、そして少女がおそらくやっているのであろう、
正体不明の黒い蔦のようなものに体全体が切り刻まれてゆく。
どくどくと流れる血は蔦にそのまま吸収され、ころがる手足もまた闇にと飲み込まれていっている。
激痛にさいなまれ意識を失いかけるとどこからともな強制的に意識を覚醒させられる。
自分達は最強ではなかったのか?
自分達の知識、そして技術においてかなうものは一人もいなかったのでは?
すでに彼らに抵抗する意思はなく、
ただただ純粋なまでに畏怖を抱きその場にころがっている状態と成り果てている。
それでも四肢のいくつかを失っていても普通にたっていられるのはこの空間のなせる技というべきか。
ただ転がられては面白くない、という理由でヴリトラがそのようにしているに過ぎないのだが。
そのことに気付いた彼らの心は…完全にと壊れた。
それを見届け満足そうにほほ笑み、両手をあわせて、一言。
「そろそろ恐怖もだいぶ熟されたかな~?んでは、いただきま~す♪」
刹那、彼らのすべてを闇の口が…表現するならば巨大な獣の口が漆黒の牙をもって飲み込んでゆく……
「ねえねえ。昨日、何かがあったのかな?」
「?何で?ケレス?」
朝、学校にいくと何やらとてつもなく騒がしい。
ゆえに寮をでて共に学校に出向いて行っていたケレスが門の前でおもわずつぶやく。
せわしなく教師達が出入りしているようにも垣間見えるが、
しかし中にはどこかしらすっきりとした表情をしている者の姿もみえる。
「まあ、別に問題はないんじゃないの?町まで騒ぎになってないようだし」
事実、ここまでくるのに町はいつもと変わりない様子であった。
そもそも、問題がおこるはずなどない。
昨日、ヴリトラは自身に絡んでこようとした男たちをたしかに呑みこんだ。
しかし、それは彼らの【心】を呑みこんだわけであり、肉体をどうこうしたわけではない。
久しぶりに喰らった【感情】がとてもここちよく、ついでに建物全体にいた存在達からも、
すこしばかり喰らっただけのこと。
「おいしかったよ~」
そんな二人の会話をうけて横ではにこやかに何やらとんでもないことをいっているヴリトラ。
しかし、そのおいしかった、の意味は当然ケレスには判るはずもない。
「ま、いきましょ。たしか今日は祭りの希望科目を提出する日だったわよね?」
「あ、うん……」
何だかとても釈然としないまでも、考えていも判らないものはわからない。
まあ、教室にいってから誰かにきいてみましょう。
そう自己完結し、そのまま教室にむけて歩きだすケレス。
「さて。一時消された悪意の心はいつまた発生するかしら…ね?」
ふふふ。
あの時間帯、学校にのこっているものすべての心がヴリトラによって呑みこまれた。
力あるものがその様子をみていれば漆黒の大きな獣の口が瞬く間に学校すべてを一瞬のうちに呑みこんだ。
その光景が視えていたであろう。
しかし、命あるもの、というものは生きているかぎりあくまでも貪欲。
一時きれいに【悪意】が他者の手によりかき消されたとしても時間とともに再びその【悪意】は発生してくる。
それはそれぞれの個々の性格にもよるのだが。
そのまま悪意を知らずに平和にくらすものもなかにはいる。
しかしほとんどの確率で再びその心に悪意をもつことは今までの経験上、ディアはよく判っている。
「あと、ヴリちゃん、あまりほいほいと広範囲で食事はしないようにね?」
「は~い!」
久しぶりの少しばかり味のある食事を得られたことによりヴリトラの機嫌ははてしなくよい。
そんなディアとヴリトラの会話の意味に気づくことなく、
「ディア!それにヴーリちゃん、いそがないと間に合わないわよ~!」
そんな二人にと声をかけているケレス。
ケレスは知るよしもない。
自分が首をかしげている現象が実は、ヴリトラ達が起こしたものだ、という事実を……
「はい!それでは、各自、いろいろと考えたとはおもうが。
アイヤルで行われる大会の希望をそれぞれ書き出して提出するように!」
アイヤルとは暦を示す言語。
この世界においては、暦ごとに呼び方があり、若葉が生えるこの時期のことをアイヤル、という。
朝、生徒達の点呼をとるためにとやってきた総合科C組Aクラス担任、
ヘスティア=アルクメーネが教室全体をみわたし、生徒達に言い放つ。
つまり来月に執り行われる大会の要望を生徒達に求めているわけなのだが。
この世界においての暦は、第一月から第十二月までという形で呼び表わされる。
それぞれの月に呼び名があり、アイヤル、というのは第二月のことを暦上では指し示す。
古の地上においてはその月のことを四月、と呼んでいた地域もあったのだが
それは今を生きる存在達には関係ない。
この暦に関してのみは各界共通事項となっており、ゆえに暦に関しての問題は今のところおこったことはない。
この暦は太陽の周回によって決められたものであり、ゆえに四年に一度、
その周回軌道における暦訂正をすべく、第二アダル、というものが存在している。
その月はいつものアダル月よりも日が一日ほどながくなる。
なぜか本日、出勤してきてみればギルド協会そのものがあわただしく動いていた。
話しをきけば、昨日遅くまで学校に残っていたすべての存在達がいきなり性格がかわってしまった。
とのこと。
それまで嫌味などをいっていたものがいきなり素直になったり、
もしくは扱いずらかったはずの人物がいきなり低姿勢でしかも子供のごとくに反応してきたり。
しかも人数からしてみれば数百人単位での出来事。
ゆえにその原因を追求すべく、ギルド協会が全力をあげて捜査に乗り出したのだが。
彼らに共通していることはかつての自分をかなり恥じている、ということにすぎず。
何かの副作用とかがあるというようには感じられない。
そもそもいきなり数百人単位の人間や様々なその時間帯にいた種族達が有無を言わさず同じ症状になりはてた。
さすがにこれを無視するわけにもいかず、朝から校舎やその周辺に異常がないか全力をあげて捜査していた。
しかし何の以上もみられない。
逆をいえばそれまで多少すくなからず発生していた【淀み】がきれいさっぱり消え去っていた。
しかし、少し考えればわかることなのだが、多少なりとも淀みがあった場所にいきなり清潔空間が発生した。
そこに様々な淀みが再び流れ込まない、という保証はどこにもない。
ゆえにギルド協会に所属するものはもとより、国をあげて全力でそれらの対処にまわっていたのだが。
かといって生徒たちに不安をあたえるわけにはいかない。
何より意味不明の出来事がありましたので今日は学校はお休みです。
といえばそれでなくても先日の一件のこともある。
余計な不安をあおり、さらには国の信頼をも揺るがす事態になりかねない。
生徒達の安全を確保しつつ、本日の授業は午前中で切り上げる…
あくまでも表向きの理由は、来月に開催される大会の準備、ということにして。
この時期、そういうことはよくあるのでおそらく生徒達は怪しまないであろう。
そしてまた国民達もよくあることなので授業が午前中で打ち切られても違和感は感じないはず。
もともと、大会における希望をきく予定日だったのだから問題はまったくない。
朝から何かいつもと違う様子はたしかに見受けられるが、生徒達にその真意は伝えられていない。
もしかしたらまた先日のように厄介なものが近くにあらわれたのかもしれない。
そんな予感すら生徒達の脳裏によぎる。
しかしこの場にいる限り、守護精霊の力もあり何より安全である。
そう生徒達は知っている。
…もっとも、守護精霊の力さえおよばない輩が襲撃してきた場合、
どんな存在をもってしても迎撃は不可能であろう。
特に彼らが人、という種族であり、または普通の存在である以上、対抗手段がなきにも等しい。
そのような輩が普通の国、もしくは町に攻め入ったという話しはあまりきかない。
しかし、ときおり気まぐれなのか小さな町や村などが原因不明の何かによって消滅、
もしくは住人全員がかき消える、という現象がおこっているということは知っている。
心の中に不安はそれぞれあるものの、今自分達がやらなければいけないことは、
全員強制参加ともいえる協会主催、修学過程検証実技大会の参加科目の選択である。
これは一度提出すれば訂正が利かない。
ゆえによくよく考える必要性がある。
自分の力をためすために別の特殊分野を選択するもよし。
他の技術者などにまじって自分の技量を試してみるのもよし。
何よりもこの大会は今の自分の力と能力を自分自身で見直すには十分すぎるイベントとなっている。
中には様々な店を開いてその売り上げ、もくしは人気を競うという分野もまたあったりする。
そもそも、大会におけるすべての出店舗はみな、大会参加者という形式をとっている。
あるものいわく、販売実習のようなもの、とはいっていたりするのだが。
しかしギルド協会学校側としても似通ったものは開催している。
それは年に一度、各階位ごとに希望をきき、生徒たちのみで実習させる、という試み。
仕入れから開発、そして販売にいたるまですべて生徒たちのみで執り行う。
異様にその実習に命をかけている生徒もいたりするのはお約束ともいえるであろう。
このたびの大会は対象は生徒達だけ、ではない。
一般参加者もいるのである。
つまり、世間において自分の力がどこまで通用するのか。
それを見極めるよい機会。
ゆえに生徒達は真剣に悩む。
自分がどの分野を選択するかによって今後の行く末を決めるきっかけともなるのだから。
それぞれが悩みつつも、第一志望、第二志望、必須志望などを配られた書類に書き込んでゆく。
必須志望は文字通り、絶対にうけたい分野を記入。
そして第一志望、第二志望などに関しては受けてみてもいいかな?
とよく自分の中でも順位が定かでないものを記入してゆく。
そしてそれらの志望を総合的に集計し、それぞれ大会に参加する分野が決定する。
さすがに全世界…といっても、主に地上界のみ限定にはなるが、
それでも参加者は毎年かなりの人数にのぼる。
ゆえにどうしても抽選的なものになってしまうのは仕方のないこと。
学生は強制参加なので予選のようなものはないが、
一般参加者は事前に予選のようなものがあり、すでにもう篩いにかけられている。
つまりは本戦である大会に挑んでくる一般参加者は予選を勝ち抜いてきたつわものばかり。
そんな中に生徒がほぼ無抵抗な状態で放り込まれるこの大会。
世間の荒波の厳しさをもしってもらう目的、とはギルド協会側の意見ではあるが、
毎回その苛酷さに泣きごとをいう生徒の数もすなくない。
もっとも、中には一般の人々よりも上を目指してさらなる高みを!
と向上心を培う生徒達もいるにはいるが。
しばしそれぞれ、最終的な考えを自分自身でまとめつつ、
教師より配られた参加票に必須事項を記入してゆく生徒達の姿が、
この日、各教室においてみうけられてゆくのであった――
「よっしゃぁぁ!予選つうかぁぁっ!」
予選の結果は後日、連絡という形で予選参加者達には伝えられることとなる。
本戦の案内がこない予選参加者達は本戦に挑むことはできない。
そのかわり、予選参加者は優先的に観戦するための資格が得られることとなっている。
もしくは望めば無料で大会の様子を観戦するための【水晶珠】を購入することも可能。
長かった。
本当に長かった、とおもう。
そもそも、この国にきてからいろいろとあったが、ようやく国をでる口実ができた。
「戦争なんて冗談じゃないが、それいったら袋叩きだしな~」
しかし、大会のため、といえば堂々と国を出奔することができる。
「そもそもさ~。絶対にヴルトゥーム様も戦争なんて面倒なことはやめておく。
そういうにきまってるのに、どうしてこうお祭り騒ぎ的に騒ぐのかな?」
信仰している神自体には問題はないとおもう。
そもそも、我関せず、自分は静かに隠居してます。
その姿勢が神の中でも一番好感がもてているのも事実。
前のときの国王はそのあたりの考えも神に近しい考えであっただろう。
しかし、新しき国王はなぜかその考えを他者…つまりは他信仰のものにまで強制し強要しようとしている。
それは王国の基礎たる宗教概念からしても間違っているのではないか。
そう理性的に考えればわかりそうなのに、自分達の考えが一番正しい。
そう国王から発表があり、各国に侵攻すると国民に伝えられたのはつい先日のこと。
戦争が始まるまでにはどうにか国から逃れたかったが、
その前から予選をうけていたのが功をそうした。
「…知り合いだけでも、僕の応援っていう形でどうにか国外脱出させないとな~」
しかしそれが国の衛兵達の耳にはいれば、本戦参加もおそらく破棄されてしまうであろう。
完全に徴兵が始まる前にさくっと国をでる必要性が生じている。
「…と、とにかく。まずはこの本戦案内証をなくさないように、またとられないようにしとかないと」
この証がなければ本戦に参加できない。
それだけは困る。
まだ外の世界への【扉】が閉じられた、とはきいていない。
【扉】を利用するにはどうしてもこの証が必要不可欠となってくる。
扉、とは各大陸を結ぶ道。
一番安全に各大陸間を移動できる手段として利用されている。
もっとも、普通に海路もあるにはあるが、海路はかなり時間を要する。
また、途中で何があるかもわからない。
しかし扉の利用者はどうしても制限されてしまい、身分をきちんと証明するものがなければまず利用不可能。
しかし、大会参加者となれば話しは別。
証さえあれば何名でも利用は可能。
ヴルド王国。
邪神、と呼ばれている元は天界の神でもあるヴルトームを進行している御国柄。
そしてその首都に近いとある町の中、一人の青年がぶつぶつと今後の対策をたててゆく。
彼の名前はクルド。
オリジナルの術や細工ものをつくらせたならば、国中で右にでるものはいない、といわれている腕の持ち主。
一応、きちんとヴルド王国にあるギルド協会学校はきちんと卒業している。
在学中は上位まで組み込むことはできなかったが、今の自分の実力をためしたい。
閉鎖的な空間の中でなくその目を世界にむけていきたい。
ゆえにこっそりと予選参加していたのだから。
彼の編み出したオリジナルの術により今の国の状態は彼なりに把握している。
だからこそ、国外脱出は時間との勝負。
…はやく脱出しないとまちがいなく自分達にもそのとばっちりは確実にまわってくる。
「向かう先で一番いいのは、やっぱりテミス王国だろうな~」
何しろギルド協会の本部がある国である。
そこほど一番安全でなおかつ情報があつまってくる場所はないだろう。
その近くで家をかり商売するのもよし、もしくは冒険者となるのもよし。
そんなことを考えつつも、しばしクルドは今後の対策をたててゆくのであった……
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あとがきもどき:
薫:この世界の暦の元は古代バビロニアの暦となっております。
第1月=ニサン(三月)・第2月=アイヤル(四月)・第3月=シマヌ(五月)・
第4月=ドゥドズ(六月)・第5月=アブ(七月)・第6月=ウルル(八月)・
第7月=テシュリトゥ(九月)・第8月=アラフシャムヌ(十月)・第9月=キスリム(十一月)・
第10月=テベトゥ(十二月)・第11月=サバトゥ(一月)・第12月=アダル(二月)
※閏月に関しては第二月、第二アダルと区別しております。(四年に一度の割合)
さてさて、前回(使途の役割)にでてきた王国さんの民間人がでてきました。
彼によってあの国の今の正確とおもえしき情報がテミス王国のほうにもつたわります。
…もっとも、全世界の存在達が参加する大会を戦争おこそうとしている輩がほうっておくはずもなく。
実力者が手薄になったそのスキをねらって…という計画だったりするのですが(定番?
何はともあれ、ではまた次回にて♪
2011年3月27日(日)某日
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