まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

今回はヴリトラとディアとの戦いですが、何度も明記してますが、
戦いの光景はものすっごくオブラートに包んで表現してあります。
まあ読み手の皆さまの想像力にお任せ、という意味でもあり、
その想像力をなるべく現実に近いように頑張って表現している…つもりではあるんですけど。
頭の中にはきっちりと映像はあるんですけどねぇ…ふぅ……
まあ、あくまでオブラート、オブラート……

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『あ…貴方様は何を考えておられるんですかぁぁっ!!』
きぃんっ。
と頭にのみ響く念波での会話。
道を移動し中央の建物にまでやってきたディアとヴリトラ。
道を移動したその先。
そこになぜか腕をくんだ見覚えのある黒髪の青年がたたずんでおり、
二人…というかヴリトラの姿をみるなりいきなりそんな念波での言葉を飛ばしてくる。
それもピンポイントで。
この場で叫ばないのは彼の理性がまだ正気であったがゆえであろう。
この場で彼が【あなたさま】など叫べばおのずと目の前の少女達が彼より上のもの。
つまりとてつもない地位にいる存在達である、と容易に推測は可能となる。
「げっ。し…シアン?」
その姿をみておもわずディアの背後にかくれるヴリトラ。
「あ~。そういえばヴリちゃんは何もいわずに出てきてたんだったわねぇ。
  それはそうと、久しぶり。シアン。元気そうね?」
そんなヴリトラの様子に苦笑しつつも、目の前にいる青年にと語りかけるディア。
「ってぇぇ!?お、お久しぶりです『…意思様…ですよね?』」
気配はかなり抑えていれどもその【気】は忘れようがない。
「私以外の誰だっていうの?」
「……は~…納得です。それでですか。すでに噂になってますよ……
  このたびの大会で星の記憶をみせてた参加者がいるって……」
この場にいる係り員達はほとんど精神感応でその光景を視ることもでき、
また各エリアを監視している係りのものも当然、試合の光景の真実を視ていたこととなる。
ゆえに、ディアがおこなった【星の記憶】に関しては、すでに噂の的となっている。
そもそもこの場にいることから彼女達が普通の人間ではない、と物語っているようなものなのだが。
しかし認識されないように周囲の空間をごまかしているがためにそんな彼らの会話に気づくものはいない。
「あまり噂になるようなら記憶けしときましょうかね?」
「…さらっといわないでくださいまし……」
おもいっきりさらっとしでかしそうでかなり怖い。
その気になれば何でもできる、とわかっているからこそなおさらに。
それでもあまり畏怖の感情がないのは、彼もまた幼きころに彼女とあっているからであろう。
どちらかといえば母を慕う慈母の心のほうがはるかに強い。
「それより。シアン、あなたがここにいる、というのは何か用事があったんじゃないの?」
どうやらこのまま話していても終わりそうにない。
ゆえに、目の前にいるシアン…竜族の長たる彼にと問いかけるディア。
しばし、その場において誰にも聞かれないように結界をほどこしつつ、彼らの会話が繰り広げられてゆく……

光と闇の楔 ~決勝戦と【真】本戦へ~

『ついにやってきました、SGエリア、決勝戦!
  誰が予測していたでしょう!なんと、勝ちあがってきたのは両方とも少女、
  しかもギルド学園の生徒達だぁぁっ!!』
この空間内では時間、というものはあってないようなもの。
そもそも太陽も何もないのだから時間の感覚がよくわからない。
それでも参加者や観客たちにはきちんとそれぞれのエリアにおいて就寝する場所が提示されている。
まあ、いちいち元の界にもどって休むことも可能ではあるものの。
この空間は外界と時間の流れが異なり、ここでの時間間隔と外の時間間隔はかなり異なる。
外では一月という期間ではあるものの、この場にいる存在達にとってはもっと長く時は感じられる。
つまり、一度もどって休んでこちらにもどったりすれば、肝心なものを見逃していたり、
もしくは参加者だとすれば不戦敗になっていることもしばしば。
ゆえに大概皆、この空間内で大会中は生活することが常識となっている。
ディアとヴリトラに関しては、中央の建物に移動しては休んでいたりするのだが。
『わぁぁぁっ!』
進行係りの声をうけ、観客達からたちのぼる盛大なる歓声。
さもありなん。
何しろここにいたるまで圧倒的な力においてディアもヴリトラも勝ち進んできていたりする。
対戦相手がまるで子供のように小さな少女達に翻弄されてゆく光景は視るものをさらにひきつける。
このエリアでの決勝戦に勝ち残ったのはいうまでもなく、ディアとヴリトラ。
そして勝ったものが本当の意味での戦闘部門大会本戦参加者となりえる。
つまりは、いくつもあるエリアごとの優勝者が集まり、本格的な実力勝負となりえる大会が始まるのである。
「でも、ディアもヴーリちゃんもそこがしれませんね……」
「…まあ、おふたかた、だしな……」
観客席にてそんな会話をしているケレスとシアン。

シアンに関しては一緒に行動しているときにケレスと出会い、ディアが昔からの知り合い、と紹介ていたりする。
シアンとしても二人をそのままほうっておくわけにもいかず、かといって意見しても聞き入れてもらえるはずもなく。
何かがあれば自分がでてコトを治めよう、という気持ちで共に行動しているに過ぎないのだが。
とはいえ里のほうの役目もあることから、そちらには自分の影というか分身を一応おいてきてはいる。
彼ら竜族は力がある程度に達すると自らの身をいくつかに分けることが可能。
力もまったく同等のままもう一人の自分を作り出すことができるが、
基本、どちらかが主導権をもつ。
この方法をもちいれば別の界などにいても、自らの魂の繋がりで遠く離れている場所の出来事などを知ることも可能。
それは彼ら竜族が基本、その魂と肉体を自然界における力のすべてで創られている。
ということに由来する。
他の存在でそのようなことがでるのは、まずいない。
【意思】に関しては、この大地そのものが意思の一部であることから、
その器となる肉体をどこに表そうとそれは意思の気持ち一つ。
つまり同時に無数にその器を各場所に姿を現すことも可能。
すくなくとも、もともとが惑星そのものである以上、仮初めの器は器でしかないのだから。

ケレスは一緒に観戦している人物がじつは竜族の長であるなどとは夢にもおもっていない。
ヴーリに対して、様をつけて呼んでいることから竜族である、とは検討はつけてはいるが。
でもヴーリちゃん、様づけでよばれるなんてやっぱりかなり実力あるとこの竜族なのかな?
そんなことをケレスは思っていたりする。
真実は時として知らないほうが幸せである。
そのことを十分に理解しているシアンも自分のことをケレスに説明していない。
そもそも共に行動していて同じ学校の生徒だという人物が、実は【星の意思】である。
などといったい誰が想像できようか。
混乱し、下手をすればショック死しても不思議ではない。
ディア達の初戦からエリア別の決勝戦迄。
すでに大会が始まって数日が経過している。
始めは初対面であるシアンに戸惑っていたケレスではあるが、
どうみてもヴーリとの会話において彼が気苦労を背負いまくっている。
というのが嫌でもわかり、逆にし親しみがわいていたりする。
ケレスとて常識外れのディアと一緒にいて精神的に疲れることは多々とあった。
そんな中で同じような境遇の者があらわれれば仲間意識も芽生える、というもの。
二人の正体をしっているのと知らないのとでは負担がかなり異なる。
ケレスはいまだ、ディアの正体も、ヴーリ、と名乗っているヴリトラの正体も知らない。
知らないうちは知らないほうが幸せ。
そうおもい、シアンもゆえに話してはいない。
そしてその話していないことは当然、シアン自身のことも含まれる。
「…しかし、お二方の戦いか……会場が消滅しなければよいが……」
そこまでいってふと気づく。
「それは愚問、か」
そもそも衝撃に耐えうるだけの結界をおそらく【意思】は張り巡らせるであろう。
それも第三者には絶対にわからないように。
それだけは確信がもてる。
そんなシアンの心配は何のその。
「さってと。ヴリちゃん?とりあえず周囲に幻を起動させといたから。
  久しぶりに全力でやってきなさいね?」
「はいっ!」
何しろ最近全力をだせる機会はまったくなかった。
目の前の【意思】がそういうのならばまったくもって問題ない。
そもそも全力をだせなければ今の自分の状態が今いちよく把握しきれない。
ゆえにその言葉にきらきらと目を輝かす。
「じゃぁ……」
ヴリトラの言葉に満足し、にっこり微笑み。

『Comme pour la chose de mon nom, je ne propulse pas de gratuitement le tu non plus』
――我が名のもと 汝の力を解放せん

刹那、周囲に凛、としたそれでいてどこか畏れ多く、なお懐かしいような温かな声がディアの口より発せられ、
その声は会場全体にと響き渡る。
「……なっ!?」
その旋律の意味を理解して思わず叫ぶシアン。
その声はこの場にいるすべての存在に聞こえている。
いるがその意味を理解できているものはまずいない。
「…張られているのは…時空認識?…それと……完全防壁?」
どうにか内心動揺しつつも、会場と観客席の間に新たに張られた特殊空間を見極めようと目を凝らす。
時空認識とは文字通り、第三者からみての時間の認識をずらすこと。
つまり一時間相手が動いていたとするが、第三者からみてみればほんの数分しか動いている様子が視えない。
といった代物。
この結界が張られた場合、中で何がおこっているのかまず外から認識するのは不可能。
そう、それこそ【意思】と同じ力を擁したものでなければ。
先ほどの言葉の意味と、そしてこの結界。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カンベンシテクダサイ・・・・・・・・・」
おもわず涙目になりつつも遠くをみつめてつぶやくシアン。
この場に彼のような立場のものがいればおそらく全員がそのようにつぶやいていたであろう。
今からこの会場で行われるのは、ひさかたぶりの母と子ともいっても過言でない、
全力のぶつかり合い…というか全力をだした稽古、なのだから……


ドッン!
わからない。
わからないが、開始の合図とともに、文字通り、観客席、否、その場そのものが揺れた。
揺れた、という表現は相応しくないのかもしれない。
文字通り突き上げられたというか沈んだ、ともいえる感覚。
一瞬その場にいるすべてのものが何かに押しつぶされたような錯覚に陥ってしまう。
それほどまでの衝撃が会場全体を包み込む。
何のことはない。
ヴリトラがその体におけるすべての【気】を解放したからに他ならないのだが。
唯一、それを理解できたシアンはといえばただただその場にて頭をかかえるしか統べがない。
どうか、騒ぎが大きくなりませんように……
神、否、いつも願う【意思】がそのきっかけなのだからその願いは誰にいうわけではない。
そもそもその願いはおそらく誰にも聞き入れられない、というのもわかっている。
わかっているが願わずにはいられない。
それはまさに現実逃避。
ヴリトラが気を解放するのと同時、ヴリトラから発せられた闘気が闘技場全体にしみわたる。
「ヴリトラ?あなたの本気はこんな程度ではないでしょう?」
それをうけにこやかに笑みをうかべ、すっと右手をあげて指を一閃させるディア。
本来ならば言葉だけでも問題ないのだが、一応今の衝撃は観客席にも伝わるようにしてみた。
ゆえに見た目だけでも何かしたように見せかけたほうが能率がよい。
それゆえのディアの行動。
ディアが指を一閃させると同時、観客席にのしかかっていた重圧が嘘のようにとかき消える。
次の瞬間。
「きゃっ!?」
その重圧はすべてヴリトラの体にのしかかり、その場にいきなりヴリトラを押しつぶす。
「ほら、頑張らないと。まだまだ柔軟体操もおわってないわよ?」
「うう。お…お母様、ひさしぶりの特訓なのに容赦なしですかっ!?」
「当然でしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
さらっとにこやかにきっぱりいわれ、そのまま涙目になりながらも硬直するヴリトラ。
しかしすぐさまに考えを改める。
…躊躇していたら、まちがいなく、殺される!
というか死ぬ目にあう!
それは今までの経験、特に幼いころに身にしみて知っている。
だからこそ。
Mon nom est Vritra 我が名はヴリトラ
その重圧すべてをすべて自分の器の中にと再びしまいこみ、ゆっくりと立ち上がりつつも言葉を発する。
ぽうっ。
ヴリトラの言葉をうけてヴリトラの体全体がほのかに光る。
Le pouvoir pur m'a nommé我なる純粋な力よ
このままではラチがあかない。
というか全力がまったくもって出せない。
ならば、力を簡易的に表にだしたほうがはるかに…遥かに戦いやすい。
Brillez et formez-le輝け形成せよ!」
刹那。
ヴリトラの背後、というか重なるように真っ白い、どこまでも白。
といい表すしかない巨大な竜、が出現する。
見上げるその姿は巨体で、思わず息をのむほど。
観客席にいる誰もがその姿を目の当たりにし思わず息をのむ。
『おおっと!?小さな生徒は簡易的にも竜族を召喚したっ!
  すごい、すごいとしかいいようのない戦いですっ!』
簡易的。
といったのは他なでもない。
たしかに竜の姿はそこにあれども器、すなわち生身をまったくもって感じさせない。
ゆえに竜の魂、もしくは何かの力を竜の形に変換している、とも捉えられる。
しかし竜の魂だけでも呼びだせる能力者はさほどいない。
ゆえに進行役の存在もつい解説に熱がこもってしまっている。
「ようやくその気になったわね。ヴリトラ。さ、訓練の開始、よ」
「全力でいきます!お母様っ!!」
かの【意思】を母、と呼ぶのはかなり久しぶりのような気がする。
だけども自分が全力でぶつかれるのは、【意思】、そしてそれに連なる【同じ存在】達しかいないのも承知している。
だからこそ…楽しくてしかたがない。
何しろ全力をだせるのは本当に本当に数万年ぶり、なのだから。


…ど、どれだけ……
結界を施しているというにもかかわらずに伝わってくる衝撃派とそして爆音。
常に爆音は鳴り響いてる状態でそれとともに空気までもが振動しているのが嫌でもわかる。
おそらく完全に衝撃を殺すのではなく少しばかりこちらにも伝わるようよわざと設定しているのであろう。
それだけは容易に予測がつく。
何しろあるいみいたずら好きなヴリトラ様の性格は【意思】ゆずりでもあるのだからして。
会場となっている闘技場の上空部には七色の光の帯が常に広がっている。
それだけで世界の安定を狂わす何かが行われている、というのは嫌でもわかる。
…この場にいる存在達のほとんどはその意味にすら気づいておらず、
それもまた術の一つなのだろう、という安易な考えをもって戦いの様子に見入っている。
その戦いの様子が簡易的に抜粋され怪しまれない程度に【視せられている・・・・・・・】、など一体誰が予測できようか。
すくなくとも真実をしるシアン以外、そのことに気づくものはまずいないであろう。
それが判るからこそ頭を抱えずにはいられない。
「?シアンさん?」
そんなシアンの様子を不思議におもいながらも少しばかり首をかしげてといかけているケレス。
たしかにディア達の戦いはすざましいのかもしれないけど、何で頭をかかえてるんだろ?
ケレスからすれば不思議でたまらない。
というか結界がほどこされているというのにこちら側、つまり観客席にも衝撃がつたわってくる攻撃。
…さすが竜族、といえるのかもしれない。
だけど、
「…そんな竜族をあっさりとあしらってるディアってほんと…規格外……」
もののみごとにヴーリからの攻撃をさらっとかわし、時にはそのまま手をふるだけで攻撃を無効化させている。
もしくははじき返しているようにみえるのは気のせいではないのであろう。
そのはじかれた攻撃が観客席と闘技場との間にかけられているであろう結界に炸裂するたびに、
観客席側もまたものすごい揺れと轟音に見舞われているこの現状。
ゆえに不思議でたまらない。
ディアって…いったい、何もの?
それとも、言霊使いとか先生達がいってたけどその能力の一つなのかしら?
ここからは対戦者達の行動はみえても声はまったくきこえない。
ゆえにそんな勘違いをしているケレス。
ケレスが首をかしげ、シアンが頭をかかえ。
しばしそんな光景が続くものの、
ふと。
「お久しぶりです。シアン様」
突如としてシアンの横に現れた人影からいきなりシアンにむけて声が発せられる。
文字通り、その場に忽然、と姿を現したのだが、その事実にケレスは気付かない。
その姿を垣間見て、一瞬目を見開き、
「…貴殿、か…貴殿、がここにきた…ということは…まさか……」
彼がわざわざ出向くということはおそらく用件は一つしかない。
その可能性に思い当たり、これ以上厄介事がふえるのかっ!?
と思わず自分を呪いたくなってしまったシアンは間違ってはいないであろう。
「はい。招集がかかりました。それで御迎えにまいりました」
…がくっ。
予測はしていたとはいえがくり、とそのままがくりと体全体をうなだれさすケレス。
嘘でも違う、といってほしかったがどうやら世の中、そう思い通りに運んではくれないらしい。
そんなシアンの様子に多少の同情を禁じ得ないが、ふと闘技場の方へとめをやり…
そのまま一瞬固まり、彼には珍しく一瞬目を見開く。
しかしすぐさまいつもの無表情にもどり、
「…ところ、あの、シアン様?」
目の前に視えている光景。
自分の記憶違いでなければ、あれはもしかして……
あれってどうみても、人間形態のヴリトラ様では!?
というか、何でどうしてヴリトラ様が?
…あ~、またいつもの気まぐれというか暇つぶしで今度は人間界の大会に?
などとどこか納得しつつも、それでも答えを求めてシアンにと問いかける。
「いうな。…たのむ……」
彼の言いたいことはわかる。
わかるがゆえに、どこか疲れたようにその言葉の先をさえぎるシアン。
その気持ちは判らなくはない。
そもそもこの場には何もしらない生命体達が多すぎる。
しかも自分の真横には普通の人族であるケレスがいる。
ゆえにその先の言葉をいわせるわけには断じていかない。
「……なるほど。どうしてシアン様がこんなところにおられるのか納得いたしました……」
心底同情せずにはいられない。
おそらく、霊獣界を抜け出してこの大会に参加した神竜を追ってきたのであろう。
そのことは容易に予測がつく。
だからこそその声には誰の目にもあきらかな同情の色がうかがえる。
しかし彼の目には対峙しているディアの姿は視えていない。
否、正確にいうなば、【視えるように許可されていない・・・・・・・・・・・・・・】。
この場に元々いた存在達、そして水晶を通じて様子を観戦している存在達。
それらに関しては【一定の条件・・・・・】をつけて視えるように許可しているディア。
「?シアンさん?あの、こちらのかたは?」
先ほどまでこんな人はいなかったはず。
ふと気がついたら自分達の真横にいた見た目三十代くらいであろうか。
どこか堅い感じのする男性。
その服装はかわっており、全身すべて黒づくめ。
今まで信じがたい光景を目の当たりにしており、そのことに気づくのが遅れた自分を少し恥じつつも、
それでも疑問に思いといかける。
「すいません。ケレスさん。私は急用ができました。
  …本当はこの場にのこって身守りたいのですけど…ね」
いつ結界を気まぐれでとり除くかわからない。
それはしない、とはおもいたいが、いつだって【意思】は気まぐれ。
だからこそ、やらない、とは言い切れない。
といって自分がここにいてもできることはないのもわかっている。
いるが…混乱を治めるくらいならばどうにかその身分をあかせば多少防ぐことはできるはず。
だからこそその身を分けてまでこの場にとどまったのだから。
「急用?そちらの方は知り合いなんですか?」
「知り合い、というか緊急召集のようですね」
事実、言葉通りの緊急招集に間違いない。
何しろ迎えがくるほどなのだから、何かがおこった、と確実に言える。
「もしかして我だけ、なのか?」
「いえ、他の代表者の方々も、です。…主がお待ちしております」
その言葉だけで瞬時に状況がとてつもなくあまりよくないのだ、と理解する。
何がおこったのかはわからない。
わからないが、すべての界における各種族の代表者を呼び出すなど並大抵の出来事ではない。
かの存在が招集をかけるということはそういうことなのだから。
「?」
そんな彼らの会話をきいてもケレスにはまったくもって意味がわからない。
「…とりあえず、後でおふたかたにこれ以上、無茶はいないでくださいませ。といっておいてください……」
彼女の言葉を聞き遂げてくれるかわからないが。
それでも人の友人、というのは【意思】にとっては久しぶりなこともあり融通をきかせてくれる可能性もある。
ゆえに望みは薄いがケレスに伝言するシアン。
何かにすがりたい、とおもうのは彼でなくても同じ思いを抱くであろう。
しかしその言葉の真の意味を当然ケレスは気づくはずもなく、
「よくわかりませんけど。いっときますね。そもそも、これって何やってるんだろ?二人とも?」
視ている限り、二人が何をしでかしているのかまったくもってわからない。
わかるのは地震ともおもえる地響きとそして衝撃派が会場と観客席を隔てている、
と言われている結界すら凌駕して観客席にまで響き渡っているという事。
目にうつる二人はさほど動いているようには視えない。
というかもののみごとにディアがヴーリの攻撃をかるくかわしており、
ときおり、ヴーリが会場と観客席側に設置されているとおもわしき結界の壁にぶつかってきているのが見て取れる。
そのたびにものすごい衝撃音と揺れが観客席全体に襲いかかっているのだが。
しかも間髪いれずに先ほどから轟音、ともいえる音のみが響き渡っていたりする。
おそらく二人が何かの術の攻防をしかけているのかもしれないが、
その様子ははっきりいってまったく見えない。
精神面のみで執り行い、その余波が物質側にでてきている可能性も否めない。
「では、失礼します」
かなり名残惜しいが招集がかかった、ということはよほどの大事がおこったといえる。
ゆえに気をひきしめる。
「『Donc?それで?Cronus avec cela qui?クロノス様は、何と?
「それですが……」
迎えにきたこの人の姿をした男性は、人にあらず。
ただこの場においては人の姿をしたほうが違和感がないから、という理由で人の姿をとっているに過ぎない。
疑問符を強調し、使者でもある彼にと問いかけるシアン。
言葉をかえたのは、ケレスにその意味を悟らさないため。
この場で時空神クロノスの名前をだせば間違いなく疑問視される。
それだけは避けねばならない事柄。
これからもおそらく二人はあのまま生徒、として過ごすのは間違いない。
ならば少しでも憂いを残すわけにはいかないのである。
そう、正体がわかってしまい地上界が大混乱に陥ることだけは断じてさけなければならないのだから。
何やら話しつつもその場をあとにしてゆく、シアンとその知り合いらしき人物を見送りつつも、
「?収拾?…何か竜族のほうであったのかな?…あ、ディア達決着ついたみたい」
ふとみれば会場の中心にくたっと倒れぴくり、とも動かないヴーリと、
そしてその真横でにこやかにたたずんでいるディアの姿が垣間見える。
それと同時、さきほどまで聞こえていた音もぴたり、とやみ衝撃派らしき振動もきこえなくなる
『おおっと!これはびっくり!何と竜を簡易召喚できるほどの生徒がやぶれたっ!
  優勝はこれまた学園のディア選手~~!!!』
今まで息をのんで戦いの様子を見守っていた進行役がはっと我にともどり声を荒げる。
次の瞬間。
『わ~~~~~~!!!』
耳をつんさくほどの歓声がSGエリア内に響き渡る。
こんな大会、一度もみたことがない。
それほど人々は息をのんで見守っていた。
音と光、そして体に感じる衝撃。
普通、会場と観客席は特殊な結界でそうそう衝撃は伝わってこないようになっている。
にもかかわらずに直接に感じられた、ということは中で行われていた攻撃がそれほどすざましかった。
ということを指し示している。
優勝者のみは名前を呼ぶことが定められている。
ゆえに、高らかにSGエリア決勝戦で勝ち残ったディアの名前が読み上げられる。
『こんな結末、誰が予測したであろうか~~!!すごい、すごすぎる大会でしたっ!
  その攻撃のほとんどが視野にはいらなかったのもまたすごいっ!
  敗れた選手ともども、どれだけの力を秘めているのか今後に期待の若手選手に、
  今一度、盛大な拍手と歓声を!!』
『わぁぁぁっっっっっ!』
実際にその会場となっている闘技場で何が正確に行われていたのか。
確実に判断し視れていたものはまったくいない。
しかし簡易的に視せられていたそれぞれの攻撃と攻防も一般の存在からすればとんでもないもの。
ゆえにこそ、収まりきらない歓声と拍手がいつまでも会場内をうめつくしてゆく……

『さて、これでSGエリアの大会は終わりとなりますが、今後はそれぞれのエリア代表者達の戦いに移ります!
  みなさん、各エリアを勝ち抜いたつわもの達の戦いをどうか楽しみにしていてくださいっ!』
ひとまず、エリアごとの戦いはおわったものの、今度は各エリアを勝ち抜いた者たちの戦いがまっている。
そしてこのSGエリアにおいても別のエリアを勝ち抜いた優勝者との戦いが設けられることとなる。
各エリアごとの優勝者達の戦い。
それこそが、この大会…戦闘部門における真の大会本番ともいうべきものであり、
一番盛り上がりをみせる大会の目玉、といっても過言ではない。

彼らは知らない。
自分達が大会によって驚喜しているそんな最中。
すべての界を揺るがす事件がおこっている、というその事実を……
静かに、静かにその影はゆっくりとしのびよっている、というその事実を……


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あとがきもどき:
薫:ようやくでてきた、時空神、クロノスの使いさんv
  まあ、彼の使いがでてきた時点で私のかく物語。
  おそらく予測がついた方々は多いとおもいます(笑
  気の毒なのは誰なんでしょうねぇ(ふふふv
  まあ、彼らには反組織のいやがらせ?とロキを探す三兄妹達。
  そして反組織が操るゾルディと深界の思惑に踊らされてもらいましょうv(非道
  何はともあれ、ではまた次回にて♪
  次回は、クロノス主催の緊急会議♪

2011年3月31日(木)某日

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