まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
今回、ようやく各ムラなどの襲撃の様子をちらっと小出し。
襲撃の様子はオブラートであるがゆえにあえて省略。
いや、さすがに人が燃えたり、挙句は乗っ取られて味方が敵にまわったり…
という表現は、全年齢対象を目指している以上、あまり好ましくないわけで(まて
というわけでそのあたりは、さらっと言葉のみでそのうちに説明的に流します。
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「え?そんなサプライズ的なものは今回はありませんよ?」
思わず報告をうけてきょとん、とした声をあげる。
だがしかし。
「しかし、報告にあがってきましたが。特に戦闘部門等において。
すべてのエリアで同じような襲撃者が乱入してきた、とのことです」
ありえない。
そもそも、大会の場となっている闘技場に乱入できるはずがない。
そこには精霊達の力をもってしっかりとした結界を施しているはず。
もしも結界を超えられるものがいるとすれば、精霊の加護をうけているものか、
あるいは、精霊達よりも上の力をもつものか、そのどちらかに限られる。
「それで…被害状況は?」
「どうにか参加者達が撃退したようですが……」
その報告をきき、ほっとする。
しかし、どうにも解せない。
「とりあえず、すべてのエリアに現状確認のために職員を向けてください」
この襲撃、この地上界エリアだけでなく他の界においてもあったという。
だからこそ気にかかる。
まったく同時期に同じような出来事が、すべての界においておこりえることがあるだろうか。
答えは…否。
「…何がおこってるんだ…?」
ギルド協会。
この場にあつめられている責任者達の会合において今後の対策を話しあわねば。
それでなくても先日報告のあった、クロノス神からの忠告をうけて集合をかけていた。
そんな会議の最中にもたらされた、このたびの一件。
自分達側、すなわちギルド協会側がときおり、参加者達に対して大戦相手を勝手に送り込むことはあれども、
このたびはそのようなことはしていない。
話しにはあがったのだが、なぜか守護精霊ティミよりこのたびだけはやらないでほしい。
そう懇願され、不思議におもいつつも、守護精霊の懇願を聞き入れないわけにはいかず、
そのような仕組みは取り入れていない。
だからこそ気にかかる。
そして他の界から入ってきた報告も同じようなもの。
この地上界だけでなく、他の界でも同じ戦闘部門に乱入者があった、とのこと。
それらはすべて参加者達に撃退されているらしいが。
何かがおかしい。
「…これも、クロノス様のおっしゃっていたのと繋がりがあるのでしょうか?」
天界、魔界の反組織メンバー達と、クロノス神がいっていた邪神ロキの能力を秘めた何かが関係しているのか。
この場でいろいろと考えても結果はわからない。
とにかく何よりも情報がほしい。
「今後のこともあります。とりあえず警備は厳重に、と各界にも報告をだしておきましょう」
「「了解」」
大会最中に何かあれば、その責任はギルド側が追うことにもなりかねない。
念には念を。
それがギルド協会が今日まで続いてきている根柢にある結束。
テミス王国、ギルド協会本部の最高幹部専用会議室においてしばしそのような会話が繰り広げられてゆく……
光と闇の楔 ~混乱!大襲撃勃発~
「なんか、すごいことになってたみたいだね~」
会場にもどり、思わず素直な感想を漏らす。
自分達が料理部門を取り扱っている出店の並ぶ場所に出向いていたそんな中、
何でも黒い襲撃者が現れ、大会最中に乱入したらしい。
満身創痍になりながらも、乱入されたときに戦っていた参加者がどうにかそれを退けたらしいが。
聞けばすべてのエリアにおいてその襲撃者は出現したらしい。
「同時期に現れたって協会側の用意したイベントなのかな?」
そんなケレスの素朴な疑問に、
「それはないでしょ。今回はそれはやってないはずよ?」
ディアはティミがギルド協会側に懇願したのを知っている。
何でも、自分達がいるのにそんなことをすれば大変なことになりかねない。
という危惧からその懇願をしたらしいのだが。
それでもディアがそれを知っても止めなかったのは今回のこの襲撃を予測していたがゆえ。
というか彼らの考えは判り安すぎる。
しかもその考えをおもいっきり保護、もしくは隔離していないがゆえにおもいっきり伝わってくる。
本当に自分達の作戦内容を知られたくないのならば、常にその意識を隔離していなければ意味がない。
その【器】が【内部】にある以上、自らの意思で隔離しないことには自然とその計画は伝わってくる。
もっとも、知ろうと思わなければ知ることもないのだが。
「今回、は?なら襲撃っていったい、何だったの?」
「たぶん、ゾルディの一種でしょ?」
ケレスの問いにさらっと答えるディア。
事実、襲撃した存在達の正体は、【ゾルディ】の分野に振り分けられる存在。
ロキの魂より複製された感情により誕生せし存在。
そしてそれらは【石】の中に封じこまれ、種として様々な場所にばらまかれている。
発動条件は至って単純。
【鍵】となるきっかけがあればよし。
そして大会の最中、しかも闘技場の中にそれが出現したことにも意味がある。
ほとんどの参加者はお守り代わりに【石】を購入している。
縁起担ぎ、とでもいうのであろうか。
話しのネタにもなるし、気休めにもなる。
どちらか片方が手にしていればそれだけで発動条件のきっかけとなる。
闘技場内。
戦闘が行われるに辺り、自然とその場に満ちる闘気は高くなる。
その闘気に反応し、石に封じられていた【力】の一部が具現化しただけに過ぎない。
その結果、傍目にはいきなりその場に出現したようにみえたのだが……
「とりあえず複製、とはいえ、少しは発散になってるかしらね……」
そもそも、彼があのような行動を行ったのは何でも一人で溜め込む性格ゆえであった。
そしてそれは眠りについている状態においても同じこと。
いつまでたっても自分の中で昇華しきれない【思い】。
自分を責め、そして守れなかった自身を責め、何のための力なのか、と嘆き、
そして…一番の原因たる存在を憎んだ。
彼の魂があのままだと、彼女の目覚めもまた遅くなる。
彼女もまた、自分のせいであのような行動をとらせてしまった、と深く傷ついているのだから。
互いにすれ違っている【心】。
そんな両親をけなげにまっている子供たち。
もういい加減に解放してもいいころあいのはず。
たとえそれが【この星系の為】という意味合いが強くあったとしても。
かの心をうけてどのように捉えるのかは、それは侵食された存在達の心のありようによる。
そのままその心を昇華できればよし、さもなくばそのままその心に呑みこまれてしまうであろう。
しかし、そういった心を昇華できるほどの強き心がなければこの場、
すなわち、力を求める場に参加する資格はない、ともいえる。
どのような出来事があってもその心において乗り越えていかなければ、
真の意味での強さ、とはいえないのだから。
「ゾルディの一種って……なんでそんなものが?」
ディアの完結な言葉に言葉を多少ふるわせつつもつぶやくケレス。
そもそも、かの存在がいる、ということ自体が不思議でならないのに。
どうしてさらっと何でもないようにいいきるのか、ケレスにとってはディアの言葉が意味不明。
「あら?強い思いがより強くその場にたまると嫌でも誕生するもの。
それがゾルディ、だしね。最近は負の心のほうの特性がより強く強調されてて、
害を及ぼす存在達のことをゾルディって呼んでるみたいだけど」
基本として設定した【理】は今、世間一般で通用している常識と多少ことなっている。
なぜか地上界、特に人間達に関してはそれらの【理】の捉え違いが果てしなく激しい。
まあ別段、それによって問題がおこるわけではないので基本、放置している状態なのだが。
「で……」
何やらまだ言いかけるケレスの言葉をさえぎり、
「それより。ケレス。私の順番、決まったみたいよ?」
にっこり微笑み、とある一点を指し示すディア。
そこには、ディアが次に戦うエリアとそしてその順番が記されている。
その情報はディアのもつ【参加証】にも新たな情報、として刻まれる。
「これで三回戦目、ね」
すでに二百あるエリア別の大会を勝ち進み、二度勝ちあがってきている。
すでに人数は百人から五十人まで絞り込まれ、次からの戦いが本当の意味での、
地上界最強決定戦、ともいえる戦いとなる。
ここまで来られる存在は少なくない。
何しろ地上界の種族問わず、様々な参加者がいる中での上位五十名。
それに食い込んだディアはさすが、といえばさすがなのであろうが。
彼女を知る存在がいればそれは当然、と切り替えすであろう。
しかしこの場に彼女の正体を知る存在はヴリトラしかいない。
「お姉様、優勝するつもりなんですか?」
「ん~。それも面白いかもね~。最近、他の界の存在達もすこしたるんでるし」
活をいれるのに優勝して、混合大会に参加してみるのもよし。
そうなった場合は多少なりとも自らの気配をそれとなくごまかす気ではあるが。
今の状態では間違いなく、【役職】を持つ存在達にと気づかれる。
それではせっかく抜け出したというのに面白くない。
しばし、たわいのない会話がその場にて繰り広げられてゆくものの、
その意味が判り兼ね、ひとり、首をかしげるケレスの姿がしばしみうけられてゆくのであった……
ドッン!!
それは唐突ともいえる。
いきなりズシン、と響くような地鳴りとともに、爆発音が鳴り響く。
『な…何だ!?』
同時刻。
様々な界における町や村において突如として起こる爆音。
よもやまったく同じ時刻に同じようなことが様々な場所で起こっている、など一体誰が想像できようか。
場所によっては、真夜中の場所もあれば、朝早い場所もある。
それは、この惑星そのものが自転している以上、そのようなことは起こりえる事柄。
だがしかし、同時期に同じく同じことが起こっているのは疑いようがない。
それと同時。
『ぐわぁぁっっっ!』
町、そして村の中心に突如として黒い塊が出現し、
それは彼らが恐怖するのに値するほどの叫び声を高々と発する。
声の発生した原因を突き止めてみればそこに視えるのはありえない存在。
すぐさまそれが【悪意】ある存在だ、とそれぞれの場所の存在達は理解する。
「な!?どうしてこんなものがいきなり!?」
居住区にこのようなものが入り込むなどとありえない。
しかも見張りに気づかれないままに中心地帯に入り込むなど。
さらにいえば守護精霊達がいる場所においては精霊が気づかないはずがない。
にもかかわらず、これはいったいどういうわけなのか。
その姿を垣間見た存在達が抱く思いはみな共通。
地上界にて、天界にて同時期に放たれたこの計画。
魔界などにおいては発生すると同時にその場にいた存在達がここぞとばかりにすでに戦いに突入していたりする。
精霊界においては【種】となる品が蔓延していなかったがゆえにそこまでの被害はでてはいない。
そもそも、精霊達からしてみれば、記念となる品などに興味はない。
彼らは基本、自然の気によって糧を得ている種族。
ゆえに娯楽、といってもそれぞれの感情などをうける娯楽はあれども、
品物を集めたり、という娯楽をもっている存在はごくわずか。
ゆえに、精霊界においてはこのたびの襲撃は起こりえていない。
しかし霊獣界、そして深界などにおいてもまったく同じ現象が同時刻発生していたりする。
それこそが【種】を撒いた彼ら【組織】の目的。
同時期、多発的に同時発生させることにより、本来の目標をごまかすという手段がとれる。
【組織】の存在達が狙っているのは、あくまでも中枢部。
各界における中枢たる場を抑えることにより自らの力を周囲に知らしめる。
それこそが目的。
この一度の襲撃で達成できる、とは夢にもおもっていない。
ただ、戦力をかなり削ぎそして目的を達せられればよい。
この襲撃はその目的のための布石、でしかないのだから。
「くっ!とにかく、戦えるものは武器を手にとれ!」
ぼこぼことそれと同時に黒い塊の数は瞬く間にふえてゆき、それらはその口から黒き炎を吹き出し、
その炎は周囲を黒き闇の炎で燃やしつくす。
その炎に触れたモノはことごとく一瞬のうちに朽ち果て灰と化してゆく。
悪夢、としかいいようのない現実。
この時期、戦力となる存在達はほとんど大きな町などに出向いている。
大会の様子をより詳しく観戦するために。
その隙を突かれたかっこうのこの襲撃にどんな意味があるのか。
それはその場にいきる存在達にはわからない。
一つだけいえること、それすなわち……
「これ以上、被害を拡大させるなぁぁっ!!」
町の警備を担当する存在、そしてまた、村を守る自警団。
さらには何かある可能性があるから、といって見回りを強化されていた兵士達。
それぞれがそれぞれの思いを抱きつつも、思うことはみな同じ。
すなわち、
いきなり現れた【敵】の襲撃に民間人を巻き込まぬように各自が努力するしかない。
増援を呼んでいる暇もなさそうである。
何しろ時間とともに黒き塊ともいえる様々な容姿をしている【ソレ】は瞬く間に数を増やしていっている。
『わぁぁっ!』
自分達の力が通用するかわからない。
しかし、大切な存在をまもるため。
または愛する存在を守るため、そして役目を全うするため。
様々な思いを抱きつつも、それぞれの場所にて【黒き存在】に対抗してゆく存在達の姿。
この日、各界の至るところにおいて、空が瞬く間に黒煙と暁色にと染まってゆく……
『さあ、ついにやってきました!上位五十名による戦いだぁぁっ!』
『わぁぁっ!』
会場の外においてはとてつもない攻防が繰り広げられているとは微塵も知らず、
何とものんびりとした大会進行役の声が会場にと響き渡る。
ちなみに、上位五十名と絞られたがゆえに、今まで各エリアごとにて行われていた戦いは、
この五十名、という人数をかわきりに、SXエリア、と呼ばれるエリアにて全員挑むこととなる。
一日辺り、五戦づつ。
五日をかけて五十名から半分の二十五名に絞り込む。
とはいえ五日、といえども【外】とこの【会場】の時間率は異なる。
外からしてみればほんの一日にもみたない時間に過ぎない。
二十五名、ということは一人、不戦勝のものが必然的に産まれてくるが、
そのあたりのこともまた大会側は考慮してある。
すなわち、敗者復活戦。
五十番以内にはいり、それで負けたものは、敗者復活戦に挑む権利が与えられ、
そこで勝ち抜いたものはもう一度本戦に返り咲くことができる。
逆を言えば早く負ければ負けるほど、本戦に返り咲く機会が与えられる結果ともなるこの仕組み。
何しろ負けた順から敗者戦に挑む権利が与えられ、上にいくほどその戦いはずれこんでゆく。
一度目の敗者復活戦で認められるのは、一名のみ。
その一名を加えた二十六名による本戦が開催され、
そして勝ち進んだ十三名、そしてさらに敗者復活戦で復活した一名。
つまり、敗者復活戦で本戦に勝ち上がれる権利を手にいれられるものは二名のみ。
そして最終的に七名によるそれぞれ勝数による大会が行われ、
一人が残りの六人全員と戦い、その勝敗の数によって優勝者は決定する。
これはどの界における戦闘部門においても同じ仕組みをとっている。
『上位組の大会の始めの幕を飾るのは、学生ながらも勝ちあがってきたディア選手と、
火の支配者の異名を誇る、イフリー選手だぁぁっ!』
ディアの髪が白に近いものならば、イフリー、と呼ばれた選手の髪は橙色。
もっとも、ディアの髪の色は、白、というよりはどちらかといえば銀色に近いような色にみえなくもないのだが。
その光り加減によっては銀色にもみえるし灰色にもみえるという代物。
ディアの瞳が青ならば、イフリーの瞳は水色。
ある意味、深い色と薄い色、との差異でしかない瞳の色違い。
「…げっ!?ディアの相手ってあの火の支配者のイフリー!?」
初戦からおもいっきりあたり、おもいっきり負けた人物である。
ゆえに思わず観客席にてその説明をきき叫ぶケレス。
「いいな~。お姉様、…というか、同じエリアでなかったら私もあそこにいれたのに……」
同じエリアでなければ間違いなく勝ち進んでいる自信がある。
ゆえにそうつぶやかずにはいられないヴリトラ。
「…来年度はこっそりと、魔界側にでも参加してみようかな……」
何やらぽそり、とシアンが聞けば卒倒しそうなことをいっているヴリトラではあるが。
「…ヴーリちゃん。それはさすがに危ないとおもうわよ?」
ヴーリが竜族とはしってはいるが、魔界においてどの程度通用するのかケレスにも理解不能。
それでなくても、ヴーリはディアにいともあっさりと攻撃の一つあてることなく倒された。
ケレスの感覚的にはディアが勝ったのはディアのもつ能力ゆえであろう。
そう理解している。
人の扱う【言霊】にかなわない者が、いくら竜族とて魔界で通用するかはわからない。
それでなくても、天界、魔界の戦いはかなり激しい、そう伝え聞いている。
「それに今はヴーリちゃんも留学生という立場ではあるけど、学校の生徒なんだし。
来年度はどうなるのかわからないけどね」
留学の時期が一時的なものなのか、永劫的なものなのか、そのあたりはわからない。
当人が生活にあきて学校を去る、といえばギルド側としては引きとめられない。
というかむしろそれを期待しているほうがはるかに強い。
何しろ竜族をその内に保護?している、と他の国などに知られればそれが侵略の意思あり。
そう捉えかねない国が少なくとも一カ国は存在している。
そしてまた、他の界においてもギルドが不穏な動きあり、そう捉えられても不思議ではない。
今のところそのような噂になっていないのは、シアンなどが必死に情報を抑えているからに他ならないのだが。
万が一、竜族が留学している、と知られても、その存在が存在。
理由をきいた他の界の上層部達の反応は、ほとんどがシアンに同情する、という結果となり果てる。
何しろ神竜ヴリトラが気まぐれを起こすのはよくあること。
そのたびにその都度、そのときに長の立場にいる黄竜がほとんど被害をこうむっている。
そしてまた、ヴリトラを本気で怒らせれば、【王】、もしくは【補佐官】以外にかなうものはいない。
それを彼らは十分に理解している。
ゆえに強くいえないのも事実。
機嫌を損ねでもすれば、その反動で界の半分以上が壊滅する、という結果にもなりかねない。
すでに幾度かそのようなことがあったがゆえに、神竜に対しての扱いは、
各界においてかなり慎重に慎重を極めるようになっている。
…そんな暗黙の了解、ともいえる事柄を知らないのは、おそらく人類達のみ。
彼らの寿命は果てしなく短い。
他の短い生命体達はそこまで文明などを発達させていない。
文明と知力を持ち合わせ、そして命短き生命は人類を置いて他にはいない。
「う~ん。来年はお姉様さそって別の界にいってみようかな~」
「……人間が他界に入り込めたらそれこそすごいとおもうけど……」
何やら横で信じられないことをいっているヴーリの台詞にただただ呆れるしかないケレス。
しかし、ケレスは知らない。
ヴリトラがいったことは別にすごくも何ともない、ということを。
「あ、それより、ディアの戦いが始まるわよ。…ディア、大丈夫かなぁ?」
自分は手も足もでなかった。
火の支配者の異名は伊達ではない。
眼下において始まろうとする戦いを前に、ぽつり、とつぶやくケレス。
これから何が起こるのか、いまだもってケレスはまだ気づいてはいない……
どくっん。
戦いの最中、何かが鼓動した。
それが何だかわからない。
戦いを繰り広げてゆく最中、今まで以上に気分が高騰してきていたのは事実。
術を放っても無効化されるか、もしくは相殺される。
それも言葉一つで。
ぞくぞくする。
ここまでぞくぞくする戦いはいまだかつてあっただろうか。
「ふ…ふふ…あ~ははは!この私、火の支配者にここまで付いてこられる者がいるとはな!
しかもまだ子供で!あ~ははは!」
もはやもう笑うしかない。
しかも目の前にいるのはまだギルド協会学校に所属している一介の生徒に過ぎないというのだ。
これが笑わずして何とする。
自分は強い。
そう思っていた。
他の界においても通用する実力はすでについている、と。
しかし現実はどうであろうか。
たった一人の子供にすら自分の術はことごとく無効化されている。
だけども、負けられない。
負けられるはずがない。
国の名誉にかけて、自らが得た異名にかけて。
「しかし、私はまけないっ!!!!」
術で効果が得られないのならば、別の道をゆくまで。
今までは術のみに戦術を絞っていた。
相手が子供、ということもあり、それで決着はつくだろう。
そうおもって自分自身で決めていた。
しかし、結果は予測をはるかに上回っている。
自分の術というか攻撃はまったく相手に傷一つおわせるどころか、
そもそも発動すら打ち消される始末。
ゆえに、
「火の支配者イフリー!いざ、まいる!」
今まで触れもしなかった愛剣。
それを方手に剣に炎を纏わせる。
火の支配者の異名は伊達ではない。
彼女は武器に炎を纏わすことにより、その攻撃力を各段に飛躍的向上させることができる。
しかし…それは攻撃する相手が、【普通】出会った場合に通じる技。
イフリーは気づいていない。
目の前にいる少女のもつ気配に。
その気配が【何】なのかわかれば、彼女の行動もまた無意味、と悟ったであろう……
そして、その認識不足が彼女にこれからどのような結果をもたらすか、ということを……
「…すごい……」
言霊使いの能力、まさにここに極めり、といったところなのだろう。
火の支配者イフリーが術を発生させると同時、ディアが何ごとかつぶやいたかとおもうと、
その術は者の見事に書き消える。
時には水が発生し打ち消すように、時にはまるで花火のごとくに炸裂し周囲に感嘆した声をふりまきつつ。
つまりは相手の攻撃を利用しておもいっきり見せる攻撃に変化させているのは一目瞭然。
観戦している立場のものからすればそれはそれで見ていて楽しい。
思いっきり楽しめばいいのだから。
しかし相対している側からすればたまったものではない。
自分の攻撃が通用しないばかりか、観客たちを喜ばせるためにあえてその属性を変化させられている。
そう気づけばなおさらに。
「言霊使い!…なるほど、ここまで勝ち進んできだたけのことはあるっ!」
上位組の戦いより、闘技場内の台詞もまた会場内に響き渡るように設定されている。
ゆえにこそ、高々というイフリーの声も、観客席にいるケレス達の耳にと聞こえてくる。
「さあ、それはどうかしら?」
ディアからしてみれば自分が【言霊使い】であると一言もいっていない。
ただ、相手がそのように勝手に解釈し勘違いしているだけのこと。
しかしその勘違いは訂正しない。
むしろまったくする必要性がない。
能力を勝手に解釈し誤解するのは相手の自由。
誤解は本質を見抜くうえで最も弊害となる一種の束縛。
思いこみを先にもてば視えてくるものも見えなくなる。
もっとも、炎を発生させた上で、たった一言。
『』
ディアがそうつぶやいただけで炎が物の見事に収まったのを垣間見た以上、
そのような勘違いを抱くのは無理からぬこと。
しばしそのような攻防を繰り広げていた後、
ふと。
『ふ…ふふ…あ~ははは!この私、火の支配者にここまで付いてこられる者がいるとはな!
しかもまだ子供で!あ~ははは!』
ディアと対峙しているイフリーより何ともいえない高らかな笑い声が会場にと響き渡る。
そして。
『しかし、私は負けない!』
何か他に策があるのか、先ほどまで前に突っ張りだしていた腕をすっとその場に降ろし、
『火の支配者イフリー!いざ、まいる!』
先ほどまで術のみで攻撃していたイフリーがその手を下し、
片手をその腰に差していた剣にとかけ、すちゃり、とその剣を抜き放ちディアにむけて構えなおす。
それと同時、イフリーの手にしている剣が瞬く間にと炎に包まれ、
炎の刀身が出来上がる。
「な!?魔法剣!?」
それをみて思わずケレスは叫んでいるが。
「う~ん…あれ?…ん?…あれって……」
ふとイフリーのその声の中に、とある違和感を感じ思わず顔をしかめているヴリトラ。
『さあ!まいるがいいっ!!!…って…ぐ…ああぁっっっっっっっ!!?』
炎を纏った剣を持ちつつも、にっと笑ったイフリー。
だがしかし、次の瞬間。
勝利を確信したイフリーの表情は瞬く間に苦悶の表情にと変わりゆく。
纏わせていた炎の色が赤から瞬く間に黒にと変化してゆき、
そして。
『…我、目の前の敵をせん滅せん』
イフリーの声とも誰のものともいえない声がイフリーの口より発せられる。
先ほどまでのイフリーがもっていた雰囲気とはことなり。
今のイフリーは、その全身からとてつもなく独特な気配を纏わせ、
そしてその背にはゆらゆらと揺らめく黒き炎を纏っている。
そういうイフリーの目はうつろで、どこをみているかもわからない存在と成り果てている。
「…んんん?…なんで、…ロキの気配がしてるの?」
それから受ける気配。
その気配の元に気づき、思わずつぶやいているヴリトラ。
そしてまた。
「あらら。まあ、アレを持ってたのはしってたけど…ねぇ。
そこまで勝利に執着してなければ問題なかったでしょうにね~」
相手が例の【石】を持っていたのは知っていた。
人、というものは先が視えないからこそ面白い。
そんなことを思いつつ、くすり、と笑いつぶやいてるディア。
ただ勝ちたいばかりに自分で決めた理ごとを破り、実力で行使しようとしたその心。
その心のあるいみ【負】の部分に【石】のもつ力が反応した。
そのまま、【勝ちたい】という思いにのり、その力が表にでてきて肉体ごと一時的に乗っ取っただけのこと。
しかし傍から見ている観客たちは何がおこったのか理解不能。
ゆえに。
『おおっと!?イフリー選手、雰囲気がかわった!これはイフリー選手の切り札か!?』
何やらまったく異なる解説が進行役から発せられていたりする。
確かに。
切り札、といえば切り札なのかもしれない。
それは当人の意思とはまったくもってない、にしろ。
しかしその事実に気づく者はまずいない。
むしろ理解しているディアとてその反応が面白いがゆえに半ば傍観の立場を貫いている。
侵食の効能をより効果的に活用したある意味、適材適所、ともいえるであろうこの一件。
「…う~ん、ここまで関係のない存在達を巻き込むようにするとはね。
…ま、いっか。とりあえず力に呑まれたってことは、すくなからずその思いがあったってことだし」
自らの心が弱く、力の呑まれてしまうのうでは所詮、それまでの心でしかない。
自らの意思でその【力】を退け屈服させてこそ真の【力】は得られる。
「さて。イフリーはどっちになるかしら…ね?」
どうやら面白くなりそう。
そう思い、違う意味で盛り上がる観客たちとは対照的に、一人ほほ笑むディアの姿が、
闘技場の内部において見受けられてゆくのであった――
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あとがきもどき:
薫:ケレスと初戦であたった人物が、ディアと戦い、【石】の力に呑みこまれる回でした(まて
次回で【外】にて襲撃が起こっている事実がもたらされます。
とりあえずそれで第一回目の襲撃は完了ですね。
そののち、後始末におわれる世界と、その間に元々の目的である間者を送り込んでいる組織。
さて、学生さんや関係者達にはこれから苦労してもらいましょうv
何はともあれではまた次回にて♪
2011年4月4日(月)某日
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