まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

たぶんきっと、いや間違いなく忘れられてる守護精霊がちらっとでてきたりv
ちなみに、2話目ででてきた部屋ですよー(笑

#####################################





光と闇の楔 ~現実は夢幻のごとく~

「……は~……」
ざわざわとざわめきが周囲に満ちている。
いつもならば露天でにぎわい、それにともなう商売人達の呼び声も今日はどこか違う。
「なんか、長い夢をみていたような……」
「夢にしてはリアル…だよな?」
「そういえば、叔父さんのお墓って…どうしてたっけ?」
ぼんやりとした感覚、というのはまさにこういうのをいうのかもしれない。
自分だけ、とおもえばどうやらそれは違っているらしい。
それとなく周囲にきいてみれば皆同じような感覚に陥っているらしい。
まるで一晩にて様々な経験をしたかのような、そんな感覚。
そんな感覚を町の人々、といわず実は世界中の人々。
否、人をとわず命あるものほとんどがそのような感覚に陥っていたりする。
自分だけならばいざ知らず、全員が全員同じような感覚をもっている、というのに疑問の声があがるものの、
だからといって、何がどうなったのか、普通の存在に知る術はない。
「?なんか町の人達、おかしくない?」
何かを忘れているようなきがする。
しかしそれが何かはわからない。
いつものように、そう、いつものように部屋ディアをむかえにいきギルドへと出向こうとしたケレス。
何かを忘れているような、何となくもやもやとした感じをうけつつも、
確か今日はギルド本部へと授業の課外の一環にて依頼をうけなければならなかったはず。
そう思い、寮よりでて、町にでむいたはいいものの、町のなかがいつもと何かが違う。
ケレスも感じている感覚をどうやら町の人達も感じているのか、そのような会話が聞き取れる。
「?どうかした?」
「えっと。ディアは何ともないわけ?」
「別に?」
きょとん、とした表情でそうかえされてはそれ以上、何もいえないのもまた事実。
最も、ディアからしてみればこれらは想定内であり、
もともとこのような現象をおこした当事者でもあることからまったくもって違和感も何もあったものではない。
少し前に行われたとある会議の内容も彼らの記憶を多少書き換えているゆえに、
彼らもまたかの国の暴挙ともいうべき出来事を完全には覚えてはいない。
と。
バタバタと何やら兵士らしき人々があわててかけてゆくのがみてとれる。
それとともにどうやらギルド本部の方向から何やら騒がしき声もきこえてくる。
「あの?何かあったんですか?」
ばたばたとかけてゆく一人の関係者?なのであろう。
ギルド職員の制服をきている人物を捕まえといかける。
「ああ。君たちは学園の生徒だね。ちょっとね。
  ああ、今日はごめん。ギルド本部はおそらく機能しなくなるとおもうよ。
  もしも依頼をうけたかったりするなら、学園内のギルド支部でうけてくれる?」
道をあるく二人の服装はいうまでもなく学園指定の制服。
もっとも、かの学園には制服、という制服はきちんときまっている、とかいうのではない。
が、一応あることにはあるのもまた事実。
何でも、生徒達がトラブルに巻き込まれたときのための身元証明になるとか何とか。
そんな理由で一応、任意ではあるがあることはあるのもまた事実。
ちなみに、学園の生徒でないものが制服をきても罰せられることはない。
あくまでも表向きには。
しかし、一種の身元を偽った、とされかねない、というので敬遠され暗黙の了解で、
そのような行動をするものは今のところほとんどみうけられていない。
「そういえば、寮内できいたけど。なんかどこかの国の王様が死んだとか。
  王族がいなくなったとか。それで精霊の委託をうけて新たに統治者をきめるとか。
  なんか噂してたから、食堂で。そのあたりに関係あるのかしら?」
あくまでも噂、という形にてさらっとあるいみ爆弾発言。
この事実は今現在、ごくごく一部のものにしか知られていない。
かの国のギルドより通達があり、
今現在、各国のギルド関係者及び国政関係者達が事実確認を行っている。
ゆえに普通の一般人でしかないたかが一生徒にすぎない一人が知っている。
というのはありえない。
普通ならば。
事実は奇なり、とはよくいったもの。
かの悪意、すなわちあるいみヴォイドの暗黒部分にもっとも取り込まれていた者たち。
それらはかの光をあびても自らの考えをあらためようとせず、
そのまま自らの心の闇へとその身を堕としめた。
そのような存在はこの惑星上、すくなからずいる。
かの国の上層部の存在達はそれが顕著であったことから、しかもそれらが国政に携わるものたちばかり。
ゆえにそれらにきづいた…堕ちたものは基本、その肉体そのものを失ってしまう。
強き思いにより生み出されし、【ゾルディ】。
その存在にその身を転換させてしまい、間接的には姿が消えたかのようにみえなくもない。
堕ちてしまったがゆえに耐えられなくなった肉体はくろずんだ肉の塊となりその場に残る。
聖なる炎でのみそういった肉体は消滅させることができる。
そのままほうっておけばあらたな脅威となりえる存在。
当然のことながら実際はこの国においてもそういったものは多少なりともいたのだが。
すでに意思達、すなわち姉妹会議が終わってからのち、ディアは対処を施している。
「…何、それ?」
「学園にもどったら詳しいことがわかるんじゃない?
  とりあえず、今日は依頼をあきらめたほうが無難じゃないかしら?」
そういった情報はこれからここ数日のうちに様々集まってくるのは必然。
そこまでの記憶操作はしていないので、そのあたりは人の手により解決すべきこと。
何もかも手をくわえていれば、成長するものも成長しなくなる。
もっとも、かつてのように何もせずにいたばかりに世界の破滅につながりかねない。
という事態も絶対にさけなけれはならないことではあるのだが……
「……なんか、釈然としないけど。たしかに。依頼をうけるどころじゃなさそうね」
人の出入りがあわただしい。
ギルド教会本部の前まできてみたが、どうやら人の出入りがあわただしく、
皆が皆、何やら情報を求めようと叫びあっているのがみてとれる。
それが扉の外、すなわち本部の外にまできこえてきている。
よもや一つの国、しかも国の軸たる主要部たる大部分のものが消失したあげく、
精霊の提案で一般のものから統治者というか統括するものをきめるなど前代未聞。
かといって、かの地の精霊の意見をないがしろにできるはずもなく。
ゆえに今現在、どの国も情報収集におわれているのが実情。
まさに寝耳に水、という諺がどこかの国にあるらしいがその諺通り騒動はいたるところにておこっている。
もっとも目が覚めてからの違和感を吹き飛ばすほどの内容なので、
騒動に巻き込まれているものたちからしてみれば、
何がおこったのか、という何かしらの違和感を調べようとする暇すらない。
正確にいうならばそんな気すらもおこらないほどに騒動になっているのだが。
ディアにしてみれば世界中で何がおこっているのか、などというのはまるわかり。
しかし、一介の学生に過ぎない自分が知っている、というのも怪訝をうみかねない。
ゆえに無難な返事をしているにすぎない。
「…ちょ。…うん。でも納得。そんな噂がされてたの?というかどこできいたの?」
「なんか先生達が大声で叫んでたのをちらっときいただけだけど?」
教員達が真実をつきとめようと叫んで情報収集をおこなっていたのは事実。
もっとも、それが教員室で、という注釈はつくのだが。
「そういえば、なんか寮をでるときも先生達があわただしかったわね……」
ディアのいうとおり、いつもは廊下を走るな、などという教員達がこぞって走って、
何やらあわただしくしていたのを寮よりでるときにケレスも目の当たりにしている。
「ま、考えていても私たちには何もできないし。ともあれ学校にもどりましょうか」
「…そうね。あ~あ。うけなくてもいい授業をうけるしかないのかなぁ?」
本日ある授業は別にうけてもうけなくてもいいしろもの。
何が悲しくて基礎を学びなおさなければいけないのか。
それも子供むけの。
しかし、教師曰く、何ごとも基礎は大切、といってその授業が削られることはない。
もっとも、課外授業扱いとなるギルドの依頼をうけていればその授業は免除される。
ゆえに学生の中では、その授業がある日はすなわち、ギルドで依頼をうける日。
とあるいみで認識されていたりする。
その日が本日、であったはずなのだが…この調子ではどうやら依頼どころではないらしい。
「まあ。おとなしく基礎を練習がてら復習するのもありじゃないの?」
「う~……ひたすらに瞑想とかするの苦手なのよね……」
おもいっきり嫌そうにいうケレスの様子におもわず笑みがこぼれてしまう。
精神統一、というのは何においても基本中の基本ではあるが、
それが苦手、簡単にいえばじっとするのが苦手だ、という輩は多々といる。
かくいうこのケレスもそんな一人であったりするのだが、
それはこれまでの付き合いからディアとて把握している。
「慣れれば楽だけどね。世界中をも見渡せるようになるし」
「…それって、かなり修業つまないとむりじゃない?精霊達ですらそれ無理でしょ」
「できない、とおもっていたら何ごともできないものよ」
何ごとも決めつけて行動すれば先が閉ざされる。
もっとも行き過ぎてもその先にまっているのは大概破滅、しかないが。
「ともあれ、もどりますか」
どちらにしても今日はギルドは一般向けに機能しないであろうことは明白。
逆に混乱に乗じて何か面倒事がおこりかねない。
大概混乱時になるとそれに乗じてよからぬことをたくらむものがでてくるのもまた事実。
……最も、今回に限り、絶対にそのようなことは起こりえない、のだが。
当然そんな事実をケレスが知るはずもなく、
「そうね。しかたないか…は~……」
そんなディアの言葉に心底いやそうな表情をしつつももと来た道をもどりだす。
道を歩く二人の耳にはとまどったような人々の声がいまだにとどいてきていたりする。
漠然とではあるが大切なもの、もしくは大切な人を失ったような感覚をもっているものすらいるらしく、
そんな人達はといえばその対象者の無事を率先してたしかめていたりする様がみてとれる。
大通りなどでそのようなやり取りが至るところで行われているにもかかわらず、
誰もがそれを不思議におもうことなく、逆にその会話に割ってはいる姿みもてとれる。
「…ほんと、何がおこったのかしら?」
「さあ?」
当事者にもかかわらず、ディアが何もいわないのだから誰もわかるはずがない。
そもそもこの現象をきちんと把握しているのはごくごくわずかの存在、しかいないのだから……
平穏なる日常のはずなのにどこか騒然としているそんな街中。
ほとんどの存在達が騒然としている中で普通に、しかも道を歩いている二人の姿は、
今現在においてはあるいみ逆に目だってしまうほど。
しかしそんな二人に人々は構うことはせず、それぞれがそれぞれ情報を収集するために、
または大切な人達や関係者の無事などを確認するために翻弄している模様。
が、当然のことながらケレスはその事実に気づかない。
そもそもケレスにとって心配するような相手はほぼ間違いなく家族…なのだが、
その家族の主たる筆頭たる母親の強さを知っているがゆえ、
普通の存在達とくらべ、その焦燥感に近い感覚が失われているのもまた事実……


「ほんと。何があったんだろ?」
「うん。先生達も何かあわただしいし」
「聖地に何かあったとかきいたけど?」
「え~?私はとあるお偉いさんが行方不明にことごとくなったってきいたけど?」
ざわざわざわ。
学園にもどるとどうも情報が錯綜しているらしく、生徒達がそれぞれ聞いた噂を語り合っていたりする。
結局のところらちが明かない、ということもあり学園に戻り、
自分達のクラスに戻ってきているディアとケレス。
教室にいくと生徒達がそれぞれ様々な情報を照らし合わせながら話しているのがみてとれる。
半ばざわざわとする教室にそのまま入り、ひとまずそれぞれ自分達の席へとつく。
情報が錯綜しているのはケレスとてここまで戻ってくるまでにつかめている。
ゆえに一度席にとついたのち、クラスメート達から詳しく話しを聞くためにあえて会話にはいっていたりする。
最も、ディアに関してはそのまま席について何やら読み始めている。
その【何か】を誰かが覗き込んで入ればそれは確実に普通の【本】でないことがわかったであろう。
何しろ言葉が自動で書き込まれてはページが埋まると勝手にページがめくられている。
が、その事実に気づいている生徒達はまずいない。

噂とは不思議なものでまったく別な方向性をもって伝わることがある。
このたびの一件にしてもまた然り。
どこからどう漏れて間違った方向にいったのか、
中には聖地で反乱がおきた、などという噂もあったりする。
今現在、各国ともにそれぞれ状況を把握するために、
【聖なる導き】とよばれし緊急通路を用い、各国ともそれぞれ人員を派遣していたりする。
もっともそんな事情をここに通う生徒達が知るよしもなく、
噂は噂としてどんどんオヒレがつきまくりひろまっていっている今現在。
さらにその噂は生徒たちに及ばず町の中にまで及んでいたりする。
おそらく正式な発表がないかぎり、人々は様々な錯綜する噂に翻弄されるであろう。
それでも目に視えての混乱が起こらないのはその噂が何か治安を悪化させたり、
あげくは【ゾルディ】や【堕烙者】などがその噂によって発生していない、というのも起因している。
……最も、この状態がつづけば【ゾルディ】くらいは生みだされそうな勢い、なのではあるが。
ギルド協会にしろ、この【学園】にしろ今朝からこの手の話題で持ち切りになっている。
何しろ確実に一年と少しばかりの記憶があいまいになっているのである。
騒ぎにならないほうがあるいみどうかしている。
それでもあまり危機感を感じないのはそれをほどこした原因の力ゆえ。
しかし普通にいきる存在もの達は当然そんな理由をしるはずもない……

がらり。
ざわざわとしているそんな最中。
がらりと扉が開く音がして、入口から入ってくる本日今から本来行われるはずの担当の教師。
その教師とは別の教師が扉から教室内にとはいってき、
そのままぱんばん、とかるく手をたたき、生徒達に机につくように促したのち、
ぐるり、とその場にいる教室内の生徒達をみわたし、
「はいはい。皆さん。おちついてください。本日は諸事情により担当の先生がお休みとなります。
  そして、みなさんは自習という形になりますが、ここで担当教員より皆さん、各自瞑想を。
  という指示を承っていますので、みなさん、瞑想室にむかってください」
ちなみに瞑想にてもちいられるのは基本、学園の地下にあるとある一室にて行われる。
もっとも、その場では召喚の儀などといった授業もまた執り行われているのだが。
この地において一番安全な場、といえばまちがいなくこの【場】を指し示すであろう。
それほどまでに、この地を守護する【守護精霊】の加護が強いといわれている場所。
実際にこの場においてこの王国の守護精霊たる【ティミ】が姿を現したこともあるほど。
……そのときの相手が【誰】であったか、というのは別として。
「瞑想室かぁ。そういえば入学してから初めての召喚の儀の授業でいったわね~」
「そういえばあったわね」
あの場にてこの地を治めているティミが出現したのをおもいだしおもわずくすり、と笑みを漏らすディア。
本来ならばかなりおおごとなりかねない守護精霊召喚、という事態にもかかわらず、
当時、あまり事が大きくならなかったのは一重にディアがちょこっと細工をしたからに他ならない。
「あれからいろいろあったけど。……なんかところどころ曖昧、なのよねぇ?
  何か誰かがいたようなそうでないような……」
「ん~。それってたぶん、【上】の世界の存在とかじゃないの?
  彼らが降臨してきたときの記憶って時折彼らが意図しなかった場合消えることあるらしいし」
事実、頻々に出向いては混乱するであろう、というので一応そのような制約が設けられてはいる。
近年ではその制約をきちんと扱うものは滅多といないが。
事実、ディアの台詞に嘘はない。
ヴリトラが降臨してきていたことも事実ならば、さらにいえば新たなマァトたる彼女もきていた。
ゆえに嘘はいっていない、嘘は。
「ああ。なんかそういうこともあるらしいって授業でならったっけ?」
「そうそう。きにしないほうがいいわよ」
「なら何か今先生達が混乱してるのも何か天界か魔界でごたごたでもあったのかなぁ?」
「でも天変地異がこの地上におこったわけでもないし。何かあれば精霊達から神託がくだるだろうし」
「…ディアって冷静ねぇ」
「客観的に考えたら誰でもそうおもうとおもうわよ?」
移動しがてらそんな会話をしているディアとクラスメート達。
事実、客観的に物ごとを捕らえているのはディアだけではなく、
むしろ生徒の中にもそういう考えのものはいる。
そしてまた教員の中にも。
それでも教師達が奔走しているのは確実なる正確な情報をつかむため。
まがりなりにもここは、ギルド協会が経営する学びの場。
わかりません、しりません、では世間的にも都合がわるい。
むしろ知っていて当然。
それが常識、と思われているがゆえに完全なる正確な情報を集めるのに躍起になっている今現在。
最も、天界なども今現在、ちょっとした騒ぎになっているがゆえに、
彼らとの連絡がつかなかったりするのだが。
どちらにしても、きちんとした情報がはいってこない以上、
一生徒でしかない彼らに真実を知る術もない。
たしかに何が起こっているのかきにはなるが、だからといって下手な噂などに惑わされ、
行動を制限されてしまう、というのも困りもの。
逆をいえばこういう場合に下手に噂に振り回されたりした場合、
確実にギルドの査定に響くことはまずまちがいない。
世の中、情報を混乱させて相手を貶める、という戦術は多く見受けられる。
そういう場合の耐性すらをもつけなければ世の中をいろいろな意味で渡ってはいかれない。
あるいみ生き強さ、というべきものの必需事項の一つともいえること。
今回の出来事はそれに該当する、と一部のものはすでに考えており、
ギルドに所属する様々なものたちの査定をこのたびの一件によってつけたらどうか。
という意見まででていたりする。
【学園】の中にと位置する聖堂の一角にとある隠し通路をつかい地下の【瞑想室】へ。
普段は普通の壁一面の絵がかかれているその一角に鍵があり、
その絵の中にと隠された鍵穴に特定の鍵を差し込むことにより、道はひらかれる。
ちなみにこの道はこのギルドが経営している【学園】以外に【王城】そして【ギルド本部】しか存在しない。
年に一度、王城の道は国民にも解放され、限定された日にのみ部屋にはいることを許されている。
最も授業で使う場合は優遇が認められており、ゆえにこういったときの臨時的な場にも使われることがある。
基本的にそれぞれの道は一本道であり、周囲は特殊な石により四方固められており、
ほんのりとした光を伴いながら地下につづく道にもかかわらず視界はわるくない。
足元はオレンジ色のような淡き光をともない、壁は青き光。
ついでに天井は淡い緑色の光を伴っており、道そのものが幻想的な雰囲気を醸し出している。
その先にとある俗にいう【瞑想室】に関しては地下にもかかわらず、
まるで真夜中の夜空をみるかのごとく、天井には無数に光る星々の輝きがみてとれる。
それぞれを守護する精霊の力により、その時間帯における【空】の様子が
そのまま光の屈折などに関係なくそのまま天井に転写されているがゆえの現象。
予断ではあるが、この現象は外の天気が晴れ出ない場合でも可能となっており、
かつてはこの場をつかい星占術などといったものもあったほど。
今はその術はすたれているが、一重にわざわざそのようなものにたよらずとも、
精霊などといった存在に聞けば確実なる返答がえられる、という手段方法が確立されたがゆえ。
それまでざわざわしていた生徒達も【回廊】に入ると同時、ぴたり、とその会話をやめているのがみてとれる。
何しろこの【回廊】あまりに雑念が強い場合、もののみごとに特殊な【力】が満ちているからか、
そのままこの【場】からはじかれることがある。
強いていうなれば、この場を管理している【回廊の精霊】がうるさい、と感じた場合、
そのままこの回廊から追い出されることも。
そして、そうなった場合、追いだされたものはかなりの原点を喰らい、
下手をすれば学年留学、ということすらもある。
誰しもただ騒いでしまっただけで留年などしたくない。
精霊と人間の感覚の違い、といえばそれまででしかないが、
ともあれかの空間にいくのにあまりに強い雑念をもつものはいらない、もしくはふさわしくない。
というのがここの【管理者】こと【回廊の精霊】の考え。
…中には騒ぐのは大歓迎、むしろ騒いでほしい、という精霊もいたりする。
しかしそういう精霊はこういった場の管理者などになることはまずありえない。
そういう精霊が守護についている場所は大概命豊かな場となることが多い。
…逆をいえば騒がしすぎる場になりすぎる、といった欠点もあるのだが。
人も精霊も基本的にはあまり変わり映えしない。
特にきちんと自我をもち意思をもつ精霊ならばなおさらに。
異なるのはその概念。
人にとっては不都合なことでも精霊にとってはそうでないことも多い。
そういったこともあり、【言霊使い】なる存在が重宝される要員にもなっている。
【言霊使い】はそういった精霊に対してもその効力を発揮し、いうことをきかせることが可能。
不可能、もしくは不都合であったりするものを【可能】とすることすらできる。
それでもその【力】が低ければ逆にその力に呑みこまれてしまうのもまた自然の理。






「あら?えっと。こんにちわ」
……ばたり。
思わずそこにいる少女の姿をみて絶句というかふらり、と立ちくらみを起こしてしまう。
「うん?ナオト君。しりあいかね?」
「あ…あはは……いやいやいやいや。あの、なんでここに!?」
おもわずそう叫んでしまうのは仕方がないことであろう。
そもそもつい先ほどというか先刻、覚醒した後に【聖地】に向かってのではなかったのか。
いや、わかる。
わかりたくないけどわかってしまうがゆえに現実逃避もしたくなってしまう。
今は混乱している最中なのであまり詮索もされずにさくっと入学できるだろう、
と何とも無責任極まりない仲間達の意見もあいまって、
いつのまにか仲間達の一部がこっそりと書類などをもとからあったかのごとくに偽造して、
裏から手をまわしていたがゆえにすんなりと新入生、という形でこの学園にとはいりこめた。
確かにこの時期、新入生を新たに迎える時期ではあるがそれにしても、である。
つくづくあの相談より前から絶対にあいつら自分に面倒事をおしつける予定だったに違いない!
と内心あとで全員に文句というか絶対に何かしらの報復をしてやる!
とおもう彼…尚人は間違っていないのかもしれない。
「ここの【意思】の移動は一応おわったけど、せっかくなんだからって。
  六階位からならまあ無難、というので社会見学をかねてきてみたんです」
にっこりというような内容ではない。
そもそも、社会見学云々でまだ即位間もないマァト…それがかりに端末のようなものだとしても。
ほいほいと出向いていいのか、という疑問が多々とある。
「ってどんな社会見学ですか!どんなっ!!」
相手がもうどのような存在…すなわち、ここの銀河系の【マァト】だなのといってはおれない。
「先代もお母様がおられるここのほうがいいだろうって」
「………あるいみ安全、かもしれないですけど…ですけどっ!!」
これ以上心労を増やしてほしくない。
切実に。
確かにかの【意思様】がいる限り問題はない、といえなくもないが、
この太陽系におけるその他の【意思】達にすらその正体を隠している彼女である。
これ以上厄介事をもってきてほしくないと思う尚人の気持ちはおそらく間違ってはいない。
と。
コンコン。
「失礼します。何か呼ばれたのですけど……って、あら?なんで二人がここに?
  ……まあ、ナオトのほうはわかるけど。……あのこ、さては社会見学とかいって送り出した口?」
ガチャリ、と協会学院長室に呼ばれていたがゆえに戻ってきた直後、この場にやってきた。
そんな彼女が扉をあけて目にしたのは見慣れた人物が二人。
否、一人はよくよく見知っており、もう一人はつい先ほどたしかに送りだしたはずの存在。
「うん?ディアさんはこの二人と知り合いかね?
  なら話しははやい。いやこの時期の新入生は珍しいからね。
  念のために精霊様にお伺いをたてると、ディアさんを名指しされてね」
まあ、精霊からしてみれば、伝道師やマァトといった自分より確実に格上のもの。
そんな彼らに対応できるもの、といえば母たる彼女しか思い当たらなかった、というのもあるが。
しかしこの町の守護精霊でもあるティミが意見したからといって、
たかが一学生にさくっと案内役をまかせていいものか。
最もこの世界において精霊のいうことは絶大なる意思の代行でもある、という認識ゆえに、
精霊の言葉、すなわち逆らってはいけない、という認識がある、にしても、である。
ちなみに、かつての面影を残しているものの、尚人も美希も今現在、
年のころならば十三歳程度の姿となっている。
六階位に付属するにあたりそれなりの容姿になっている。
「え。ええ。以前に別の場所でお会いしたことがあります。
  それで、校長先生?私を呼ばれた理由はなんでしょうか?」
授業を抜けてでてくるときに、ケレスが愚痴愚痴と文句をいっていたが。
曰く、ディアだけこの退屈な授業からぬけられてずるい、と。



「そもそもですね。まあ、別にいいですけど。
  何で何かあったらこちらに意見もとめてくるんですかね?皆さまがた?」
おもわずそう呟いてしまうのは仕方ないであろう。
絶対に。
そもそも、どうして天界、魔界ともに名だたる地位ある存在達しかも上位三名…もっとも、一位を省く。
ではあるが彼らがここにきているのが信じられない。
否、理由はわかる、判るが自分達でもう少し動けというか調べろ、というのが本音。
「補佐官様に意見をもとめにいったら些細なることだ、として取り合ってもらえないんです!」
「というか、どの界においても記憶があいまいになってるのは照らし合わせたうえで確実なのに!」
それぞれそんなことをいっている彼らにはとある期間の記憶があいまいとなっている。
だからといって、一介の【界渡り】たる自分に意見をもとめるのはどうかしている。
「補佐官様が問題ない、とおっしゃられたんでしたら。それこそ王の意思なのでは?
  否、この【場】全ての意思の総意、ということだと解釈できるとおもうのですが?」
あくまでも天界、魔界における補佐官とはそれぞれの場を治める【王】の補佐であり、
そして【王】とてこの【場】…すなわち、核となっている惑星の意思の代行者、という概念に他ならない。
その事実を上層部にいるものは知っていて当然、なのだが。
それなのにどうして自分に意見をもとめてくるのかが理解不能。
もっとも、その王そのものがこの惑星の意思そのものであり、
さらには…という事実をこの場にいる彼らが知るよしもないが。
「ですから。リュカ殿から補佐官様に詳しい話しをきいてほしいのです!」
「伝道師殿達にきいても皆、なぜか教えてくれないんですっ!」
口ぐちにそんな懇願をしてくる彼ら。
あ~…まあ、いえないよな。うん。
その理由がわかるがゆえに
思わずそんなことを思い、遠い目をするリュカはおそらく間違ってはいないであろう。
よもやこの地において【マァト】の代替わりが行われたなど、知られたら間違いなくパニックに陥る。
ついでにいえばその意思たる端末の欠片というか訓練の一環で
新たに【マァト】とついた【銀河系のマァト】がここにいる、と知られたら……
最も、さらにおそろしいことに銀河系のマァトどころか世界そのもの。
すなわちこの宇宙そのものの【マァト】というか母たる存在が彼らが補佐官、とよびし存在。
「まあ。今はロキ達一家が【外】というか【月】に出向いていった件について考えるべきかとおもうけど。
  何でそうなったのか、誰も記憶にないんでしょう?」
リュカは知ってはいるがいう気もない。
『うっ』
その言葉にただただ黙るしかない天界と魔界の関係者達。
いろいろな意味で『ロキ一家』は彼らにとっていわゆる触れてはならぬ存在、に近い。
いつのまにかとある神により幽閉されていたはずの彼の子供達は解き放たれており、
気づけばいつのまにかその母親とともにさくっとこの惑星すらをも飛び出していた。
彼ら神々や魔王等、といった存在達は基本、惑星の外においてあまり力がふるえない。
それは他の惑星の【意思】に害しないように、という生まれながらの彼らにとっての制約。
「彼らを冷遇してたものたちは気をつけないとね~」
もっとも、ロキがそんなことを欠片も思っていないのはリュカは知っている。
いるが冷遇していた、と自覚しており、またみてみぬふりをしていたものにとってはその言葉はあるいみ強烈。
すなわち、彼が惑星の外に出れた、ということは他の【惑星の意思】の許可を得たか、
はたまた【王】の許可を得たか、下手をすると【惑星の意思】そのもの許可をえた可能性もありえる。
つまりは【神の一柱】としての概念から解き放たれた、と思ってしまっても過言でない。
「まあ、彼はそんなことはしないだろうけどねぇ。ちょっかいかけられたら別だろうけど」
特に家族に害をなそうとしたら彼はまちがいなく容赦はしないであろう。
家族を守るためならば彼はあらゆる手段を用いてくる。
また面白そうだから…もとい、制限があったら役目柄困難だから、
という【星々の意思の総意】によってそういった制限も一切かの【ロキ】にはかかっていない。
最もそれをしっているのは、リュカと、そして伝道師達、そして唯一無二たる彼女しかいない。
「そんなことより。はやくもどらないと。補佐官様の雷おちるよ?今、いそがしいんでしょ?」
『!!』
「ついでに。今ここに連絡がきてま~す。『忙しい最中に出かける余裕があるのなら、
  今回している仕事を千倍に増やします』だってさ。よかったね。みなさん」
『よくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃぃ!!うわ~~!!いそいでもどれぇぇ!』
その言葉をきくなり、ざっと顔色をかえ、またたくまにその場からいなくなる。
そんな彼らの去り際を見送りつつ、
「……たぶん地上に降臨なさってるのを気づかれないためにあえて、だろうなぁ…ま、いっか。
  しかし、意思様も面倒なことを……他の惑星の意思様達にかの御方の存在を気取られないようにって。
  ただのしがない一介の存在にそんな重要な役目をいわないでくださいよぉぉぉぉぉ……」
そりゃ、この銀河の意思たる御方がここにいる、としられたら。
この太陽系の意思様がたがびっくりするのはわかりますけど、わかりますけど。
というか太陽系を含む全てたる母たるあなた様がいることすら気づかれてないんですよぉぉ…
おもわずぶつぶつと一人つぶやくリュカ。
ここに第三者たる伝道師の一人でもいればねぎらいの言葉をかけたであろう。
曰く、『仕方がない。頑張れ』……と。







                           ――Go To Next

Home    TOP     BACK    NEXT



$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$

あとがきもどき:
薫:

2012年7月30日(月)某日

Home    TOP     BACK    NEXT